第97話 新装備


 予定通り偵察の後、ミルドラド城に居る親父の所へと向かった。

 王様が来ちゃっていいのかとも思うが、臨機応変に兵を動かすなら中央の位置にあるミルドラド城が都合が良いらしい。

 人が少ないから親父も自分を駒の一つとして考え動いているんじゃないかと俺は思っている。

 王が居る場所に相応の護衛を置くのは必然。なら、ミルドラドに身を置き睨みを効かせた方が良いのだろう。


 帝国軍五千程度が帝都へと向かっていた事を親父の所に報告に行けば、丁度レスタールがベントを落としたという情報を貰った。

 将軍を筆頭に二千の部隊はこのままミルドラドに駐留し、レスタール軍のリース占領と同時に北上するそうだ。

 一応、レーベンでの出来事を大まかに報告してゲンゾウさんに怒られた所もちゃんと報告したが「よくやってるじゃないか。脅すくらい構わないさ」と逆に褒めてくれた。 


 話を終えて再び空へと飛び立った俺たちは本格的に事が動くならば、伝えて置きたい人たちが居るとベルファストへと向う。


 着いて早々にラクとふぅの所へと行き一緒に歩きながら兵舎へ。

 先ずはヒロキたちの居そうな場所をとサユリさんのお父さんの所へと向かったが、彼はミルドラド進攻で出てしまっているらしく、診療所で彼女がどうしているかを尋ねた。

 すると、オルダムへと帰ったと返された。


 じゃあ、そっちに行くかと思ったのだが、そういえば最近顔を出してなかったと魔道具製作所へと寄り道した。


「お、漸く来やがったな。出来てんぞ」

「僕の方はまだ模索中。あの杖で燃え尽きてちょっとスランプだよ」

「私は一つあるわよ。これ、試してみて!」


 先ずは手渡ししてきたミズキに視線を向けると、魔力を込めてと言われ指示に従えば飛び出ている十字の棒が高速で回った。


「ルイはギミック作るの得意でしょ。こういうの絶対好きだと思って! どう?」

「めっちゃ好き! ミズキ、ありがとな」

「でしょぉぉ! よかった!」

「――っ!?」


 ふっふーんと胸を張るミズキ。早速扇風機にして回していれば「こっちが本題だろ?」と皮の彼に腕を引かれた。

 皮の彼は大量の木箱の前へと連れて行かれ、恐る恐る中身を見れば新型爆弾がぶっ詰まっていた。

 いくつあるのかと問いかければ百五十あると言う。

 それを恐る恐る収納に入れ、とりあえずはここで一度生産を止めると伝え雇い入れている全員に大金貨で十枚を追加で渡した。


「これは口止め料も入ってるから宜しく。新兵器の話は外では絶対にしないで。出来ればここで働いたって事も広めないで欲しい。自分たちの為にもね?」


 正直、ベルファストにすらこの技術を残すか迷うほどだ。

 いずれ出てくるのは間違いないだろうが、それまではそっとしておきたい。

 原理は単純だし俺が生きているうちに見て学んだ奴が作るだろう。

 それが味方なら止められるが敵であった場合は大変なことになる。


 そんな話をすれば、既にここでの技術は口外禁止だと言われてたからその程度はもう既にやっていると返された。

 そんな最中「まさか! これで契約終了って事はないよね!?」と杖の彼が腕を引く。


「そんな訳があるまい! それよりも殿下、わしの新作を付けてみよ!」


 いや、どうして爺さんが答える……

 ずっと大人しかった杖の彼の祖父かと疑わしい爺さんが俺の腕に銀色の宝石細工が付いた篭手を装着した。


「これは……」と視線を向ければ「よくぞ聞いた!!」と元気よく説明を始めた。


 どうやら魔力増幅器だそうだ。

 それも、壊れない方の。


「殿下が強烈な魔法を使うと聞いてな。増幅を二倍程度に抑え、全力で耐久だけを上げた物を作り上げてみた。前衛もこなすのであれば更に重宝しよう?」


 言われてみるとかなり実用性が高そうだ。


「これ、全力で魔力を込めて試してみていい?」

「当たり前じゃ! 実践でいきなり使われる方が困るわい!」


 そう言われたのでお外で光の魔法陣を訓練場一杯に広げた。

 当然、ラクたちはしっかり避難させている。

 魔物が浴びたら死んでしまうとユリにしっかり見て貰って。

 何故かユリにジト目を向けられている事が気にかかったが今は皆も見ているので実験をと魔法陣を起動する。


「なん……じゃと……待て! そこまでは想定外じゃ!!」


 魔法陣を見上げ声を上げる爺さんの声に応え直ぐに止めたのだが、篭手には特に変化が無い。


「大丈夫そう、じゃない?」

「む……本当じゃ。ふははははは、流石わしだのう!

 一発でダメになる物とは訳が違う。

 これが客の声に応えるというものだ! 見たか小童!!」


「くぅぅぅっ……」と血管が切れそうな程に血を上らせて悔しがっている。


「いや、お前らの杖も凄かったじゃん……」とフォローを入れたが、彼は製作所へと泣きながら駆け込んでいった。

 そこで、皮の彼が「ああ、俺も一つあったわ!」と声を上げ、銀色のコートを持ってきた。


「これはただあの毛皮にミスリルコーティングしただけの物だ。

 光魔法で消失したって言ってたろ。あれを防げる」


 その声に思わず「うおおおおお!!」と声を上げてしまった。


「めっちゃ助かる! その所為で死ぬところだったんだ。やっぱりお前ら凄いよ!」

「いや……所詮ただのミスリルコーティングだ。熱で溶けるし攻撃でも剥げる。

 その上からコーティングしようにも光魔法で落ちるからそこまでしか手立てが無くてな。当たり前だが、溶けた後は光魔法を防げない」


 十分十分!

 光魔法で自分を巻き込める方が大事だって。炎は魔法障壁とかでも防げるし。溶かされるほど喰らい続けなければいいんだから。


 そうしてはしゃいで居たら、魔道具技師の纏め役の人が遠慮気味に間に入ってきた。


「あの、我らは今後何を作ったら良いのでしょうか?」

「えーーと。とりあえずは自由に……

 あの在庫を使う分には好きにやって良いので発明をお願いできませんか?」


 生活品だろうが戦闘用だろうが構わない。有用な物は何でも好きに作って欲しいと伝えると彼らは「わかりました」と製作所へ駆け込んでいった。

 その流れにミズキたちも混ざり何やら楽しそうに話し合いをしている。


 外にユリと二人残され「じゃあ、オルダムに向かおうか」とラクたちを帰して二人で飛び上がった。

 その途中「あの女性と随分仲が良いんですね」とミズキとの仲をチクチクと刺されながらの移動となったが、そのお陰か気持ち早く着いた。








 久しぶりに学院の寮へとお邪魔して、いつも通り先ずはアキトの部屋へと移動したが、まだ帰って来ていなかった。

 仕方が無いとユリと一緒に女子寮へ。

 ナオミ、リアーナさん、ユキナさん、キョウコちゃんの誰かしら居ないかなと寮母さんに尋ねた。


 アキトが居なかったのだから案の定ナオミも居なかったが、他三人は居たので呼んで貰い三人揃って出てきたまではよかったのだが、何故かキョウコちゃんが声を張り上げた。


「ちょっとちょっとぉ!! お嬢様に近づいたら駄目だって言ったじゃないですかぁ!!

 お嬢様から離れてください! 怒られちゃうんですってぇ!!」


 ガバッと後ろから羽交い絞めにしてユリから引き離そうとするキョウコちゃん。

 それに青筋を立てているユリ。

 どうやら、彼女は何も聞かされていないらしい。

 将軍、絶対にキョウコちゃんの事を忘れてるなと思わず苦笑した。


「はぁ……こんな所で騒ぐものじゃないわよ。先ずは移動しましょ」


 リアーナさんが深いため息を吐き、ユキナさんの部屋へと案内してくれたが、キョウコちゃんがユリの隣に居るのを阻止しようと必死に抱きついてくる。


「えっと、ユリのお父さんには了承貰ったからね?

 ミリスさんにもユリを宜しくって言われてるから」


「へっ……」と彼女が抱きつくのをやめた時にはもう既に遅かった。

 ユリに胸倉を掴まれて持ち上げられるキョウコちゃん。

 どうにか地に足を付けたいらしく、つま先を伸ばしながらもユリに視線を向け『どうして』と言わんばかりに困惑をあらわにしていた。


「あ、あのう……私の部屋で暴れないで下さいね?」と一歩引きながらも注意するユキナさん。


「お、お嬢様!? な、何故お怒りに!?」

「ルイを色香で惑わそうとするなら貴方は敵です」

「へっ!? 違います違います! 私は任務に当たっているだけで!」


 そうした言い合いを楽しそうに眺めながらお茶を飲むリアーナさん。

 どうやら昼ドラ感覚で楽しむらしい。


「ユリ、いい加減やめてやれ。もう事情はわかっただろ?」

「事情があればイグナートという男が私を抱きしめてもいいのですか?」


 あ、あれ……いつもならここは素直に従ってくれるのに。

 というか何故ここであのイケメン?

 そればっかりは許せる訳ないじゃん。

 いや男なら誰でも許せないけどあいつだけは駄目だ。


「絶対に駄目。絶対許さない。あいつがユリに近づいたら即撃ち殺す」


 ジトっとした目でユリに睨まれた。可愛い。


「ルイさん……そうじゃないでしょう?

 疚しい想いは無いんですからお前だけだと優しく抱きしめてあげればいいんです」


 ああ、なるほど。とユリを後ろから抱きしめたまま椅子に座らせた。


「ふーん。随分とうまくいったのね?」

「ああ。一応親同士も認めてくれたから、婚約者って事でいいのかな?」

「は、はい……良いと思います」

 

 よーし!

 これでこれからは堂々と言えるとホクホクした顔で親指を立てれば「フン」と鼻で笑われてしまった。


「それで、今日は二人で惚気にでも来たのかしら?」

「あっ、いや……それなんだがな」


 呆れ顔の彼女に今日の本題を伝えれば、彼女はテーブルを強く叩き立ち上がった。


「うちと帝国との戦争が始まるですってぇ!?」

「いや、うん。どっちにしても時間の問題だから手を組んで戦う事になったんだ」


 そうして現状を説明していけば、リアーナさんは一応の納得を見せた。


「ベントを落とすのにランドール侯爵軍が動き出したからもう始まるのはほぼ確定だと思う。身内には情報を伝えておこうと思って飛んできたんだ」

「そう、助かったわ。お父様そういう話はしてくれないから」

「しかし、それほど最新情報を掴んでいるなんてやりますね。

 ユリシア様との婚約といい、ルイさんは一体何をしたんですか?」


 あぁ……そうか。

 コーネリアさんたちと出会う前辺りからご無沙汰だったのか。

 けど、実は王子でしたぁなんて言うのもなんか騙していたみたいで気まずい。


「えっと、まあユリを守りたい一心で動いていたら、みたいな?」


 とユリをぎゅっと抱きしめつつも誤魔化せば「相当暴れたんですね」と何やら納得してくれた。


「そう言えば、ラズベルがベルファストに戻ったそうじゃない。

 ベルファスト王や王子も居ると聞いたけど、本当に本物なの?」


 ピンポイントでの問いかけに思わず言葉がとまる。


「あっ、私も聞きたいです! うちの王子様のお話!」


「どんな方ですか!?」とキョウコちゃんが身を乗り出してきた。


「えっと……ユリちゃん、どうしよ……?」

「どうしてそこで迷うんです。はっきり言えばいいじゃないですか。

 俺が王太子ルイ・フォン・ベルファストだって」


「「「はっ?」」」


 あれ……思ったより冷たい反応。

 そこは『えええ!?』って驚くところじゃないの?


「ええと、騙して居た訳じゃないよ。

 育ての親がずっと黙っていたから知らなかったし」

「という事は本当にルイさんがベルファストの王子なのですか?」


 ユキナさんの声に頷けば彼女は困惑した様を見せ、リアーナさんは時が止まったように固まり、キョウコちゃんは何故か青い顔に変わっていく。


「ええと、俺は何も変わってないよ。付き合い方を変えるつもりもないし」

「ルイさん……いえ、ルイ王子殿下、それは不可能で御座います」


 ユキナさんは急に畏まりながらも、レスタールの貴族家に連なる者が気安い振る舞いを続ける訳にはいかない、と断りを入れた。

 言われてみれば確かにそうか。

 統治する者は民から下に見られないかを気にしなければならない。レーベンでそれを嫌と言うほど学んだ。


「そうかぁ。じゃあ、仕方ないのかなぁ……」

「あら、でもユキナが言葉遣いを正す程度で良いのではないかしら?」


 少し困惑の顔を見せているリアーナさんからそんな提案を受けた。

 私は元より丁寧に接しているのだし、と。


「確かに。なら今まで通りでも大丈夫か。同盟国だし?」

「そうよ。同盟結んだのであればいいと思うわ」


 それで、キョウコちゃんは何故そんなに怖がっているの、と問いかければ片言になりながらも無礼を働いてしまったと謝りだした。

 大丈夫だからと気にしないよう呼びかけたがどうやら思い直す事はもう叶わない様子。

 まあユリとの間を邪魔されなくなったのはありがたい。

 その内慣れるだろうとそっとしておく事に決めた。


 そんな時、部屋の戸をノックする音が響いた。


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