第14話 お泊り



 あれから銃の試射は幾度も続いて、とうとう具現化をしているのが銃だけでも撃てなくなる状態に陥った。


「これで、俺は役立たずだ。この先は頼むぜ相棒」


 魔石だけは抜き取り全て吸収しているが、死体は持ちきれないので放置している。

 十階層の魔物である大蛇を一匹づつ担いで、二人で急いで帰路に着く。


 ユリは大蛇を抱えたままですら出会う魔物を即殺して前を進んでいく。

 不思議と凄く急いでいる様に感じたが、魔石のくり貫きから何から彼女がやってくれているし、十分着いていける速度だったので何も言わずに走った。


 そして、解体場へと蛇の魔物を持ち込めば、軽い騒ぎになり人が集まってきた。

 理由はほぼ依頼者を決めている上級生しか行けない階層の魔物を持ってきたからだ。

 上級生でも十階程度なのかと疑問に思ったが、Cクラス以下は三年生から上級生となるがA、Bクラスであれば二年生で上級生となる事を思い出して納得した。

 ユリのお陰で突出している俺たちでも怪我覚悟で九階層だ。

 回復魔法を使えない奴らが十階層に到達するのは当分先だろう。


 一匹は肉にして持ち帰る予定なので経験不問の先着順で任せたが、両方失敗はなかった様だ。

 ちなみにこれ、失敗しても何も請求は出来ない。

 ただ、向こうも失敗すると評価点を貰えないし、噂が出回ると任せて貰えなくなるので下手をすると評価が一切貰えず退学まで一直線だ。


 失敗するとお金にならないで終わるので人によっては大激怒する場合も結構あるが、学校側の規則により頼む方の自己責任なので信頼関係が大切になる。

 だから解体者も丁寧な対応だし、積極的にアピールをしてくるのだ。


 そのまま片方を貰い受け、一匹を換金してユリと分配した。

 

「あの、すみません。後で今日の分はお支払いしますね」


 唐突に言われたユリの言葉に何を言っているのかわからず「何の事?」と聞き返した。


「本来ならば、荷車に積んで持ち帰れたはずの分をです」


 ユリは律儀にも倒した魔物の数を数え始めた。

 しかも持ち帰れるはずがない総数をだ。


「いや律儀過ぎだろ。いらないから。

 それよりもこれ早く食べてみようぜ。

 食ったことないけどあの金額ならいつものよりは美味いだろ?」


「いえ、私から無理にお願いした事なのですから……」と断っても彼女は払いたそうにしていたが、俺が嫌なので「好意でやったのに後から言われても受け取れないから」と断固として断った。


「むぅ、じゃあ今日はルイさんの部屋がいいです」

「何がじゃあなのかわからんが、男の部屋だぞ。いいのか?」


 前に絡まれる可能性に付いても話が出ていたので問いかけたが、ユリは「今度は直ぐに対処するので大丈夫です」と強気に言い放った。

 うーむ。偶に気弱なのだか豪気なのだかわからなくなるな。


 だが、調理をするのならばどちらかの部屋を使うのだ。彼女が望むなら俺も特に異論はない。

 ラクたちを預かり所で受け取り、戯れながらユリを連れて自室へと戻った。


「こ、ここがルイさんの部屋ですか」

「どこも一緒なんだから代わり映えしないだろ。ユリの部屋以外」

「あはは、これだけの物があるって分かっていれば持って来なかったんですけどね」


 彼女ばかりはAクラスから落ちようとなんら問題がなさそうで羨ましい。

 まあ、少しでも活動していれば絶対に落ちることはない強さを誇っているが。

 そうした雑談を交わしながらも簡単な料理を作りささっと夕食を済ませた。


 彼女は男の部屋に来て初めて手持ち無沙汰になったからか、ふぅの方をチラチラ見て持ってこようか悩んでいるのが手に取るようにわかる。

 別に抱えている分には持ってきても良いんだけどな。

 家具を傷つけられたらかなわんけども。


「それで、どうかしたのか?」

「えっ!? 別にどうもしてませんが!?」

「いやいや、なんか今日焦ってただろ。なんか困ってる?」


 補足を入れてやれば彼女は佇まいを直し「魔装武器の手解きをお願いしたく存じます」と何故か膝に手を置いて姿勢を正すと、テーブルに頭が付く勢いで頭を下げた。


「そりゃ勿論。けど理由は言ってくれないのか?」


 さっとバラした状態で彼女の前に並べたが、手を付けずに俯いている。


「ああ、言えない事ならいいよ。そこの悪意が無いのはわかってるからさ。

 俺でも力になれるならなりたいって思っただけだから」

「……その、ごめんなさい。どうしても力が必要なんです」


 その続きの言葉はなさそうだったので、部品一つ一つの説明を行う。


「こんな答えでいいんですか?」

「だから、力になりたいって言ってるだろ。

 正直に言うとめちゃくちゃ気になるけど、言いたくない事を無理に暴けば恩を返すどころか迷惑をかけるだけだからな」


 納得がいかない顔をした彼女に再度必要ない理由を並べる。


「俺にとって、身体能力強化は物凄く必要なものだったんだ。

 それが足りないってことすらわかってないほど無知だったんだよ」


 俺は感謝の度合いを知って貰う為にゆっくりとユリに語った。

 自分が周りと比べてどうしようもなく劣っている事がずっとコンプレックスだったということを。

 

「その、ご両親は教えてくださらなかったのですか?」

「ああ、片親だった上に母さんも小さい頃に死んじゃってさ……

 母方の叔母に引き取って貰えたんだけど、ハンターとは無縁の人たちなんだ」

「あの……身体能力強化くらいは誰でも知っているはずですが……

 いえ、不躾でしたね。すみません」


 彼女はそう言って悲痛な表情でこちらを見ている。

 きっとよくありそうな虐げられた孤児みたいな想像をしたのだろう。


「いや、酷い扱いは受けてないよ。

 娘の方を溺愛していた感は否めないけども本当の息子でも同じだったと思うし。

 合格出来たら金は全部出してやるから気にせず頑張れって言ってくれるくらいには大切にしてくれていたよ」


 元々優しく温厚な家庭だったから揉めることも殆どなかった。

 金銭面に関しては俺が気にして受け取らなかっただけだ。

 そんな説明を入れていけば、彼女は余計に首をかしげてしまっていた。


「まあ、そんな事は良いんだよ。

 そんな何もなかった俺に、平民には手が出ないものを与えてくれたのがユリだ。

 それが無償だってんだから好意も持つし何かお返しをしたいって思うのは普通だろ」

「そ、そんな……私は偶々家が裕福に生まれただけでなにも」

「ああ。そして裕福に生まれたやつの大半は後ろの席のやつらみたくなるもんだ。

 お互い上から下まで眺めて劣ってれば見下し、上ならば謙る。

 そんな中、ユリお嬢様はとても高貴でいらっしゃって、時々後光が差し込む程に神々しいお方だなぁ、なんて思っちまう程だ」

「こ、神々しいって……もう! どんな幻覚を見てるんですか?」


 最後に茶化してみせれば、申し分けなさそうな顔がやっと笑顔に変わってくれた。

 全く、遠慮しすぎるってのも考えものだな。


「ほら、ユリ! 手が止まっているぞ!」

「えっ!? は、はい!!」


 こうして一つ一つ作れるようにしていったのだが、問題が発生した。

 火薬の生成が出来ないらしい。 

 バネとかは複製出来ていたので当然出来るものだと勘違いしてしまっていた。


「そもそも密封して火を付けるだけで爆発する物質ってなんですか。

 そんな物、聞いたこともありません」


 いや、粉塵爆発くらいは知られてるだろ?

 しかしそうか。この世界には火薬の発明はされていないのか。

 こうして作れてるんだから原料はあると思うんだが……

 魔力で生み出してるだけだし無い可能性もあるのか?

 いや、あるだろ。火山とか普通にあるし。

 まあ山の魔物は強くて人間のテリトリーじゃない場合が多いって聞くけど……ってそれが原因か!


 そんな事を考えながらもユリに原材料の説明を入れてみたんだが、原材料の名前すら知らなかった。

 想像が付かない以上、生成は出来ない。

 その所為で銃の作成を教えるということが出来ず仕舞いになってしまった。


「それはそうと、どうやって火薬の代わりを用意するかだが……

 爆発の魔法とかないのか?」

「あっ、あります!

 魔力を制御できる範囲で爆発させることしか出来ず、術者も巻き込むので、使い勝手が悪く攻撃には使えませんが……それで代用出来るのですか?」

「あー、出力を同等に出来れば多分?

 ただ、どう考えても危険そうだな……」


 うん。銃の暴発で指が飛んだとかそういう話も聞いたことがあるし。

 けど、死ぬ事は早々ないよな。回復魔法ってどこまで治せるんだろう。


 そこら辺の事を全て包み隠さず話して相談すれば、部位欠損は膨大な魔力を必要とするが治療は可能だからとユリの願いによりチャレンジする方向で話が進んだ。


 部屋の中では爆発魔法を試す訳にはいかないので訓練場へと移動する。

 夜なので外にある自由に使ってもいい広い空き地でのチャレンジだ。


 先ずは代用出来るかを調べる為に爆発の魔方陣を教えて欲しいと頼んだ。


 危険があるなら自分がやると強く主張したが、完成品を作れている俺が試すのが一番早く正確に試せると諭して試作を始める。

 そして、その魔方陣を書き出して貰う。

 

「この魔法は何故か出力を上げると自分をも巻き込みます。

 絶対に手元での発動はしないで下さい」


 攻撃には使えない魔法だと認識されているので主に建物などの破壊や穴掘りなどに使われるそうだ。

 その時も防壁を作る人間を数人用意するのだとか。

 そういう事ならばと、出来るだけ小さく魔方陣の形をコピーする。


「す、凄く器用ですね。こんなに小さく作れるなんて……」


 親指ほどの大きさの魔方陣を完成させてチェックして貰えば、褒められた。

 後は魔力を通せば発動する。制御できるギリギリまで離れて魔力を送り込む。


 パァンと爆竹の様な音を立てて小さな爆発が起こった。


「おお、見た感じいけそう。けど、魔方陣が壊れちゃったな」


 今回は魔装と同じく具現化させた状態で魔力を固めて魔法陣を作ったのだが、それごと弾けてしまった。

 これでは何度も撃つことが出来ない。

 なので後ろに魔力で具現化させた頑丈な板をくっつけ再チャレンジしたのだが、今度は魔力がそっちにも流れてしまい不発に終わる。

 チェーンソーは魔道具を代用していたし、銃は火薬を使っていた。

 この様な状況は初めてだったので対応に困った。


「魔装に魔力を流れない様にすることって出来ないの?」とユリに尋ねてみた。


「魔道具は資源を加工して作ってますからね。

 魔力だけでは難しいのかもしれません」


 なるほど。

 よく考えたら、それが出来るなら魔道具に頼らず魔装に魔方陣つけてるよな。


 けど製作を依頼するにしても、一先ず使えるのかどうかを知りたいな。

 とりあえず壊れても使えるかが判ればいい、と後ろのあて板を硬そうな石で代用して筒の片側に無理やりくっつけて密封させた。


 そして火薬をつけていない玉を入れて魔力を送れば、想像通り打ち出された。

 的にした木に玉がめり込む。


「おお! 出来た出来た!」

「本当ですか!? ルイ、凄いです!」


 すぐさま元の銃を作成して隣に弾を撃ち込めば、めり込んだ深さを比べればやはり威力に大きな差があった。

 これは魔方陣の威力調節を行えば良いだけの話。込める魔力次第だろう。

 しかし毎回威力が安定しないのは精度面でも安全面でも大問題だ。

 一応当て板さえ作ればほぼ作れると思っていいけど、石ごと魔方陣が壊れてしまっていたからそれなりに強度のある物じゃないと駄目だ。


「そこは大丈夫です。懇意にしている魔道具技師にお願いしますから。

 それに威力の方も送り込む魔力量の調整はできます」


 おおう。懇意にしている職人が居るとか、流石お嬢様だな。

 元々魔道具でも使われてるなら強度も問題なさそうだし心配要らないか。


「あぁ、でも威力の程はどう伝えたらいいんだろ……」

「そこも魔道具作成の時にお願いすれば調節可能にしてくれるはずです」


 聞けば魔力調節機能の付いた魔道具もあるらしく一定量を注ぐと魔方陣に行き渡る様に出来ると言う。その瞬間に発動してくれるからそれ以上にはならないのだとか。

 その一定量を調節できる様に作ってくれるらしい。

 なら後は彼女に任せて置けば良さそうだ。と銃の筒の大きさを測ってその大きさを控えて貰った。


「じゃあ、今日はこれで仕舞いだな」


 出来る事はここまでだと各自の部屋に戻る旨を伝えたのだが、彼女の表情は優れない。


「そ、その今日……このままルイの部屋に泊まっちゃダメですか?」


 予想外のユリの言葉に「は?」と変に高い声が出てしまった。


「ち、違います!! 魔装のコピーをさせて貰いたくてですよ!?

 寝るつもりはありませんから! 他意は何もありませんから!!」


 その言葉を聞いて一気に気が静まった。


「いや、ダメじゃないけど明日があるじゃん。徹夜するほど急ぎじゃないでしょ?」


 ユリが一晩中一緒とか、気になって寝れないし。


「お願いしますっ!!」


 おおう……今日は徹夜か。

 じゃあ、我慢、するよ。


 そんな事を思いつつも彼女のお泊りを受け入れた。



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