『ん……?』
「ああ!? なんだ?」
「くっそ! なにが起こったんだよ?」
左右から驚愕の声を上げる男子生徒の声が聞こえてきた。
マリンは口の端を吊り上げると、右側の鵺だった男子生徒の背後に素早く回り込み、戸惑う鵺の両手を背中に回させて手際よく手錠で拘束した。
「あっ! くぅっ!!」
鵺の姿を見て、このままでは自分も捕縛されると悟ったのだろう。バジリスクだった少年は慌てて逃げようと踵を返して走り出した。
「喧嘩は両成敗。自分だけ逃げようとするな!」
制服のポケットから折りたたみ式のブーメランを取り出すと、軽く振って開き男子生徒の足元目掛けて放った。
ブーメランは男子生徒の靴の底を掬い上げるように駆け抜けて、男子生徒は体制を崩してその場で尻餅を着いた。マリンはその隙を見逃さず床を蹴って男子生徒に接近すると、両手を素早く背中に回して手錠で拘束した。
タイミングよく、周囲を包んでいた光が引いていく。
「お前……、この力はなんだよ……?」
バジリスクの生徒がマリンを見上げて、驚いた顔で見上げて問い掛ける。
マリンは口元に笑みを浮かべると、バジリスクの男子生徒を見下ろした。
「麒麟の瑞力よ……」
麒麟、龍の顔と胴に鹿の足を持ち、牛の尾を生やした仁獣とも呼ばれる神獣だ。
その力は、あらゆる力を中和して無に帰す。それが、麒麟が仁獣と呼ばれる所以である。
マリンはその力を駆使して二人の攻撃を中和し、さらには変身を解いたのだ。
「麒麟の……? それじゃあお前がマリン・イングヴァイかぁ? 勝てねぇわけだ……」
男子生徒は深く溜息を吐くと、諦めたように体から力を抜いてその場に突っ伏した。
なんでだか知らないが、マリンの噂は変に広がっているようだった。この間など、タチの悪い暴力集団のリーダーらしき男が、名前を名乗っただけで降参したほどだ。
仕事は捗るが、なんだか納得がいかない。
光が引くと、辺りを囲んでいた生徒たちが拍手をして歓声を上げた。
風紀委員は学園では英雄だ。大勢の前で醜態を晒すわけにはいかない。
学園内で争いが起これば決まって野次馬が集まる。そこを単独で任せてくれるのは、マリンに取っては嬉しいことだった。
「ほら、そういうのはいいから生徒手帳を出しなさい!」
「上着の胸ポケットだよ」
片手を差し出すマリンに、男子生徒は視線を外して不貞腐れたように言い捨てた。
「処罰は後で通告されるから、首を洗って待ってなさいよ」
マリンは男子生徒の胸ポケットからIDカードにもなっている生徒手帳を抜き取ると、専用の機械にコードを読み取らせて減点し、元の場所に戻しながら告げた。
男子生徒は不満そうにしているが、マリンは構わず鵺のほうへ行き、同じように生徒手帳から減点をしていると、校内放送が鳴り響いた。
[一年A組マリン・イングヴァイ、三年X組ユーリ・フィロティシア、至急理事長室まで来るように。繰り返す……]
「ん……? 私……?」
それまで校内放送で呼び出しなど受けたことなどなかったマリンは、不意に名前を呼ばれて、思わずスピーカーを凝視した。
理事長室に呼ばれるようなことをした覚えはない。何かの間違いだろうが、無視をするわけにもいかない。誤解があるのならば解かねばならないのだ。
「マリ~ン、後やるから行ってきていいよ」
そんなことを考えていると、廊下の向こうから男女一ペアの風紀委員の仲間が駆け寄ってきて、おかっぱ頭の可愛い風紀委員仲間が笑顔で言ってくれた。
「あ、うん。ありがとう。じゃあお願い。
減点はもうしたから、風紀委員室に連れて行って反省文書かせて」
「了解~」
マリンは機械をベルトに通したポケットケースにしまうと、元気に片手を上げる風紀委員仲間に軽く手を振って理事長室に向かった。
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