『それってただの犬死にだから』

 横穴に飛び込もうとしたマリンの肩が引き止めるように強く掴まれた。マリンは邪魔をするその手を握り締めると手の主を睨みつけて肩から引き剥がそうとした。

「なんの策もなしで飛び出していっても敵の思うツボですよ? 落ち着いてください。

 まずはあれを倒す作戦を立てましょう」

 ユーリはあっさりと肩を離したと思いきや、今度はマリンの手首を掴んで力強く引っ張り、まっすぐにマリンを見つめると抑えた声で強く言った。

 マリンは、今すぐに危険に瀕している人を一人でも多く助けに行きたかった。自分が外に出て戦闘機を引き付ければそれだけ避難できる人が増えるはずだ。

「ん~……。考えてることは大体わかるけど、それってただの犬死だから。

 それでどうにかなるんだったら私がやってるから、ね?

 ちゃんと倒せる作戦を立ててからにしよ?」

 ユーリの手を振り払ってでも外に飛び出そうとしたマリンにクレオが苦笑を浮かべて言った。確かにマリンよりも波動を使いこなせるクレオのほうが、ずっと効率よく助けることも、囮になることもできるだろう。

 だけど逆に言えば、あの戦闘機を落とすには、マリンよりもクレオの力が必要だということになる。

 それならマリンが時間を稼いでいる間に二人で有効な作戦を立ててもらうのが一番いい方法ではないかとマリンは思った。

「波動の使えない自分は戦力にならないから、波動の使える私とゆーりんで有効な手段を考えて、って思ったでしょ?

 はっきり言って攻撃型のゆ~りんにも斬れないのを、防御補佐系の私が壊すのは無理だからね?

 私が攻撃するくらいなら、マリンの魔道具使ったほうがまだ可能性高いかな?」

 またもやマリンの思考を読むようにクレオが苦笑を浮かべたままで付け加えた。

 自分はそんなに単純で分かり易いのだろうかと一瞬落ち込んだが、クレオがなんでこうも手に取るようにマリンが考えていることを言い当てられるのか、理解した。

 そして、それが分かった途端、冷静にならなければと自分に言い聞かせた。

 クレオは洞穴の奥から素知らぬ顔で二人を見つめ、マリンを止めているように見えるが、膝の上に置かれた手はきつく握られ小刻みに震えている。

 クレオはマリンの思慮を詠んだわけではなく、自分の思いを言葉にしているだけだったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る