『安らかに眠れ……』

 クレオはそのまま数メートル、ユーリに引き摺られるように前進して……。

「わぁあああああああ!」

 数秒後、クレオの悲鳴が聞こえてきた。

(さよならクレオ、安らかに眠れ)

 マリンは黙祷をして、心の中で冗談交じりに囁いた。

 正直、穴の中はそれほど危険ではない。確かにクレオが言った通り深さや露出した岩など不安は残るが、何時爆撃されるかも分からないここよりは、数倍安全である。

 回復しつつあった彼女の体力と身体能力を踏まえれば、危険などないに等しい。三人ともそれは分かっているからこそできた寸劇なのだ。

「それでは私たちも行きましょう」

 クレオに向けた光のない瞳とは全く違う、優しい微笑みを浮かべて微笑むと穴に軽く視線を向けて促してきた。クレオに対しての態度と全く違うのは、マリンを所有者と認めてくれているか、友人だと思ってくれているかだろう。

「そうね。先行くわよ」

「どうぞ」

 マリンはユーリに微笑み掛けて一言告げると、ユーリの開けた穴へ飛び込んだ。

 中は一直線に奥へ伸びていて、先に穴に落とされたクレオの悲鳴である程度の想像はできたが、実際かなり深い。

 ユーリの斬撃は精度が高く、岩肌には余計な凹凸もなく綺麗に切り落とされている。これならクレオもどこかに引っ掛かって怪我をしたりはしていないだろう。

 岩肌で擦り傷くらいは作っているかもしれないが。

 マリンは岩肌を滑るように穴を降下して行くと、マリンに気付いたクレオが奥から手を振って迎えて、滑り落ちるマリンを受け止めてくれた。

「まぁ、あれだよね? おむすびころりんのおじいさんになった気分?」

 クレオが額に大きな汗を浮かべながら苦笑して言い、手招きをしてユーリが開けた穴の奥へ進むと、用意しておいたのか途中から横穴に逸れてさらに続いていた。

 なるほど、縦穴だけでは万が一が起きたときに三人とも命に関わる危険に晒されるが、こうして横穴へ逸れていればある程度の危険は回避できる。

 この短時間でこんな機転を働かすことができるのは、これまで潜り抜けてきた死線の数が為せる技だろう。

 クレオはユーリのように切断したのではなく破砕したのか、横穴は岩肌がごつごつしていて、手足を軽く擦っただけで深い切り傷ができてしまいそうだった。

 だが逆に言えば指や足を掛けるところが多数あって、上るには適している。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る