『ああ……マリン……』
なるほどとマリンは感心してしまった。岩場の陰に隠れて取り敢えず爆撃を避けることばかり考えていたため、穴を掘るなど思いも付かなかったのだ。
防空壕はかなり良い方法だとマリンも思った。間違って穴に爆弾が落ちてきたら一気に三人とも命を落とす危険はあるが、そんな可能性は本当に万に一つだ。
とくに岩場であるこの場所ならば、爆弾もそれほど地面を抉ることはできない。今できる最善の防御手段だろう。
「奥は深いですからきっと三人で入っても凌げる広さはあります。中であれを撃ち落とす作戦を立てましょう」
「おお。これでもう走らなくて済むんだね? さすがゆーりん。年の功だね」
にんまりと笑いながら人差し指を立ててクレオが満面の笑みでユーリを褒めたが、最後の一言が余計だったのだろう。ユーリの表情がぴしっと音が聞こえてきそうなくらいに凍りついた。
「まぁ、組織のエージェントであり、私たちの先導役でありながら、途中で精根尽き果てて、現状、お荷物になっている方よりはお役に立てているとは思ってますよ?」
ユーリは平静を装って微笑みながらクレオに返すが、表情は固まったまま、浮かべていると言うよりは貼り付けているような笑みを浮かべて、目の下の筋肉は痙攣をしているようにぴくぴくと引き攣っている。
「い……、いいから、早く入りましょう」
ユーリが怒っているのは察知したが、このままでは状況も考えず二人はまた言い合いを始めると予想して、マリンは先に避難することを促した。
二人はこうして仲良くなるタイプなのかも知れないが、今は戦闘機の爆撃が何処から降ってくるのかも分からない、非常に危険な状況なのだ。
「そうですねぇ。それでは当然、最初は怪我人からですよね」
ユーリが嗜虐的な笑みを浮かべると、少しも笑ってない瞳でクレオを見つめて近付いてくる。これには流石にクレオも顔面を蒼白させた。
「私は……、後でいいかな……? マリンから行こう!」
クレオが乾いた笑みを浮かべて焦ったようにマリンに話を振った。
「ほら、遠慮なさらずに」
ユーリはマリンの反対側に回ると、クレオの脇に肩を掛けて腰に手を回した。
「えっとぉ……、穴の深さとか気になるし、ほら、岩がむき出しになってたりしたら危ないし……。だから……」
「あはは。大丈夫ですよ。さぁ、行きましょう」
クレオが捲くし立てるがユーリは聞く耳を持たない。嫌がるクレオをマリンから引き剥がすように抱き寄せると、自らが開けた穴へ連れて行く。
クレオが助けを求めるようにマリンのシャツを握り締めたが、マリンは軽く体を捻ってかわし、シャツの素材も手伝ってかクレオの指はするりとマリンの服はするりとクレオの指先を滑った。
「ああ、マリン!」
クレオが助けを求めるようにマリンを見つめてきたが、今はユーリに逆らってはいけない気がしてマリンは視線を返すことができない。
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