第32話『今度は私が相手だよ』

「僕の茨を容易く切断するなんて凄い力だね。いや、褒めるべきは魔装器を自在に扱っている君の潜在能力かな? ソーサラーの術を固定させてブレード状にするなんてね。

 だけど器用なだけで勝てるほど僕は甘くないよ? それを教えてあげよう」

 青年は茨を持つ手首を小さく、だが凄まじい勢いで振った。青年が握る茨に振動が加わり、蛇かなにかの生き物のように襲い掛かってきた。

 マリンは波動の剣を袈裟掛けに振って突進してくる茨を切り裂いた。

 器用さだけでは戦闘には勝てないことくらい、言われなくてもマリンにも分かっている。

 波動を扱うことができず、それでも強くなりたいと願ったマリンを見兼ねて、父親が様々なアイテムを貸し与えてくれたことがあった。マリンはそれらを使いこなしはしたが、結局、波動を使いこなしていた妹に勝つことができなかった苦い経験がある。

 波動術師というのは身体能力からして凡人を超越することを身をもって知っていた。

 それでも、借り物とはいえ今はマリンにも波動が使える。うまく攻撃さえ与えられれば勝算はあるはずだ。

「いい目だね。タイミングも合っていたよ? だけど、今度はどうかな?」

 まるで楽しんでいるように右手を頭上に振り上げながら囁くと、そのまま振り下ろしてマリンに向けた。青年の腕にとぐろを巻くように漂う波動が三本の茨になって、空を切り裂いて、右と左と頭上の三方から同時にマリンに襲い掛かってきた。

 運動神経には自信はある。剣術もちゃんと道場に通って三流派も学んだ。

 それでも、波動の攻撃を三つは捌き切れないとマリンは歯噛みしながらも後ろへ跳躍してかわすと、今度は狙撃しようと着地と同時に魔装器を青年に向けた。

「うぅっ!」

 だが着地したと瞬間、再び茨が今度は左足に絡みつき、鋭い茨が筋肉に食い込む。痛みと驚きに集中を奪われ機会を失った。

 またもや波動の剣で茨を消失させるも、力を込めれば激痛が走り、倒れてはダメだと心の中で訴えるも身体は言うことを聞かず、その場に崩れるように膝を着いてしまった。

「今度こそ終わりかな?」

 血の滴る足でどうにか立とうするマリンに、恐怖を駆り立てるようにゆっくりと歩み寄ってきながら、嘲笑することは忘れずに青年は言葉を投げてくる。

 マリンは痛みに堪え、立ち上がろうとするがそれでも立てずに、地面に座り込んだままで青年を睨みつけると、魔装器を向けて白い波動の閃光を放射させた。

 閃光が青年の顔面を貫いた、と思った瞬間、青年の姿が残像を残して消失した。

「威力は絶大だけど、その攻撃は直線的過ぎるね。軌跡さえ見えれば避けるのは容易い」

 横から青年の声が聞えて慌てて視線を向けるが、マリンが青年を目視するより先に脇腹に爪先が突き刺さり、肺の中の空気を全て吐き出した。

「あぅ! うぅ……。がはっ……」

 耐えるべきところだ、耐えなければならないと頭の中で何度も繰り返すが、身体は苦痛に支配され、蹴られた脇腹を覆うように両手で押さえるとその場に蹲った。

 この状況で地に伏せてしまったら次に青年は頭を踏みつけてくるだろう。そうなる前ににどうにかしたかったが、身体が思うように動かない。

 頭を踏まれまいと必死で体を起こそうとしていた、そのときだった。

「お兄さん、今度は私が相手だよ」

 クレオの声が響き渡り、靴底で強く地を蹴り上げる音が響き渡った。

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