第68話『同じだよ』
向かってくる人々がマリンの読み通りになんらかの術で操られているのならば、この光に触れれば支配から解放されて正常に戻る、はずだった。
だが、人々はゾンビのようにふらりふらりとした足取りで近付いてきて、光に触れると削られていくように消失していった。
「えっ……!? 消え……ちゃった……?」
麒麟の中和能力には破壊の力はない。
触れた人間が粉々になるなんてことはありえないのだ。
想像すらしていなかったことにマリンは頭が真っ白になって
、近づいてくる人を凝視した。
「魔術師か錬金術師の術だよ。多分設置型の罠だね。
この間の結界と同じだよ」
思考が止まってしまったマリンに、クレオが苦笑しながら告げてくる。
なるほど、とマリンは思った。
どんなに離れた場所にいても百パーセントの力を出せるソーサラーや、波動を練って物質化させるアルケミストの術ならば、消えてなくなったのも納得ができた。
単純に、中和されたのだ。
「じゃあ、また媒介になっているものを探し出して中和すればいいのね?」
「そうだねぇ。そう簡単にいけばいいけど、あの人数を相手に探しだすのはきついかな?」
人間でないのなら遠慮なく力を振るえる。
学園で毎日地道に積み重ねてきた努力の成果を試してみたかったが、クレオがにんまりと笑って小さく肩を竦めた。
「泣き言をなんか言っても仕方がないわよ。向かってくるなら蹴散らすのみ!」
自らの中和の光が邪魔して波動の刃こそ発動できないが、魔道具を取り出して身構え、中和の光が覆う白い光の先に向かって歩き出した。
「鎌になって相性を確かめたいところですけど、この人数が相手では各個に撃破したほうが効率が良さそうですね」
マリンの隣を歩きながら、ユーリが口許に笑みを浮かべて囁いて腕を翳したが、すぐに自分の手を凝視して不思議そうに小首を傾げた。
力を発動させたがマリンの力で中和されてしまったのだろう。分かっていることとは言えやはり慣れないようだ。
「鎌かぁ……。私ちゃんと使えるかな?」
「大丈夫ですよ。私がちゃんとフォローしますから」
中和の光で包まれた白一色の世界を進みながら、マリンはユーリの言葉に一縷の不安を吐露したが、ユーリは相変わらずの笑顔で軽く返してくる。
「二人ともやる気満々だねぇ……」
クレオは二人の後を着いてきながら、茶化した口調で言ってくる。
ゾンビのように群がってくる、人の形をした敵の術と戦うのが億劫なんだろう。
冷静なクレオを見ていると、マリンにも判断力が戻り、あの人数を相手にして大丈夫かとか、そもそも、実際相手にして勝てるのか、などと言う不安が込み上げてきた。
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