『怖いですか?』
「タロット……か……」
マリンは短く呟くと立ち上がった。組織の名前だけなら幾度となく耳にしている。
危険な組織であることはなんとなく認識していたがどこか他人ことで、まさか自分が直接関わることになるとは夢にも思っていなかった。
だが詳細を聞いて怖いとも感じたが、それ以上に赦せないと思った。
自分でそういう組織に身を堕とす者は、自分で選んだのなら満足だろう。
だが、なにも知らない子供に洗脳のような教育を施し、復讐者の仲間入りをさせるなどあってはならない。
その子供は、無関係でありながら未来を黒く染め上げられてしまうのだ。
あの、自爆を選んでしまった男の子のように……。
「怖いですか?」
マリンの呟きが聞こえたらしく、ユーリが茶化すように尋ねてきた。
「さすがに、ずっと聞いて来た名前だからね。緊張はしてる。
だけど関わった以上は好きにはさせないわ。これ以上、理由のない復讐者を増やさないためにも、絶対に阻止する」
「それなら私は全力で協力します」
ユーリは微笑みを浮かべると、大きく頷いた。
「うん。ありがとう」
気持ちは嬉しいが、さっき媒介を壊したときに見せた疲れ切った様子や、頭の中に響いた皹の入ったような音を思い出すと、大鎌になったユーリを使用するのは負担を掛けてしまうのではと思った。
「私も精一杯協力するよ」
クレオがにっこりと笑って二人を交互に見ながら強く言った。
「なにを言っているのです? 元々、あなたの役目ではないですか。
協力してあげているのは、寧ろ私たちの方ですよ?」
マリンがクレオとも頷き合おうとしたが、それよりも早くユーリが冷ややかな視線をクレオに送ると、口許に皮肉な笑みを携えて淡々と言い放った。
「ぬぅ……、そうだけど……。なんかマリンの時と態度が違うよね?」
「あら、私は事実を言っただけですよ?」
クレオは眉間に皺を寄せて唇を尖らせて抗議するが、ユーリは我関せずに軽く一笑した。
確かにこの事件を学園長から受けたのはクレオであり、二人の先導者でもある以上、ユーリの言う通り解決するのはクレオの役目である。それでもあまりにも虚心に受け流すユーリに、マリンは思わず笑いが溢れてしまった。
「誰の役目かなんてどうでもいいでしょう?
みんなでタロットを倒す! それで十分じゃない?」
まるで漫才をしているような二人を見兼ねて、マリンは腰に手を当てて呆れたようにわざと深く溜息を着くと、二人を見つめて微笑した。
「そうだよねぇ。二人とも乗りかかった船だもんね。
ちゃんと解決しないと後々気になっちゃうよね」
クレオがケロッとしてにんまりとした笑みに戻ると、得意気に人差し指を立てた。
「確かにここまで来た以上、なにもしないで帰るというのはあまりにも芸がありませんが、イングヴァイさんの正義感につけ込むのはどうでしょうね?」
「酷いなぁ、別につけこんだりしてないよぉ」
なおも棘を含んだ言葉でユーリがクレオを突き刺すと、さすがにクレオは顔を顰めた。
「ほら、いいから。もう行くわよ。クレオ、端末見せて!」
もっと二人の漫才を見ていても良かったが、今は時間がない。
こうしている間にも、町の人たちはタロットに何処かへ連れて行かれているのだ。
マリンは手遅れになる前にと二人を一喝すると、クレオに情報の提示を求めた。
「うん……」
クレオがポケットから端末を出して例のアプリを起動させると、あの少女を示す点滅した赤い光点は、すぐ近くだった。
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