『誰ですか? ゆうりんって……』
「へぇ、結界まで張れるんだ? 結構有能なんだね? ゆうりん」
マリンの隣に並び、クレオがくすりと喉を鳴らして笑った。
このユーリの言う、マリンのひろげた認識範囲を、他の術者は結界と呼んでいるのだとこの時始めて知った。
マリンが調べて得た結界の知識とはかけ離れているが、それが専門用語なのだとしたら、敢えて否定をすることに意味はない。 大体にして、昨日のマンホールの一件から見てもクレオは本来の結界の意味を知っているのだ。
〈誰ですか? ゆうりんって……〉
クレオの着けた愛称が気にいらなかったのか、ユーリが不満そうに言葉を濁した。
「可愛いじゃない」
〈そうですか?〉
マリンは小さく笑みを洩らしながら宥めてみるが、ユーリは突樫貪に突っ撥ねる。
思わず苦笑を洩らして、マリンは小さく肩を竦めた。
「ん~? どうしたの? マリンさっきから一人でブツブツ言って。
もしかして、ゆうりんがなんか言ってる?」
不機嫌そうなユーリを宥めていると、クレオが小首を傾げて問い掛けてきた。
どうやら、大鎌と化したユーリの声は、使用者であるマリンにしか聞えないようだ。
「ゆうりんって呼び名が気にいらないみたいだよ?」
「ふぅん。そうなんだ? 可愛いのにゆうりんにはお気に召さなかったようだね」
「それは個人のセンスだからね……」
クレオは特にショックを受けた様子も、不満を洩らすことも悪びれることもなく、相変わらず飄々として言うと、近付いてくる人型に向かい身構えた。
マリンが広げ、ユーリが円筒状に構築した結界にクレオが触れた。その途端、クレオの身体の状況がサーモグラフィーで計測したようにはっきりと伝わってきた。
体温の高低箇所や筋肉の伸縮する動き、脈動する鼓動から彼女が身に纏っている波動の流れまでも、目で見えるわけでもないのにはっきりと知ることができる。
「!」
「んぅ? マリン、どうかしたぁ?」
急に脳に飛び込んできた膨大な情報を持つ映像に、マリンが驚き思わず飛び退くと、クレオが不思議そうに覗き込んできた。
「なんでもない……」
要らない心配を掛けないようにマリンが苦笑を浮かべながら答えると、クレオは不思議そうに「そう?」と聞き返してくるものの、それ以上の追及はしてこない。
まさに肌で感じる、と言った感覚だ。
ユーリの認識範囲を広げるという言葉の意味が、今なら納得ができた。
〈人間はデーター量が多いですからね。いきなりは驚いたでしょう? 私は最初に敵の術を感じて貰って徐々に慣れて貰うつもりでしたのに、始めてこの術を発動させた人に安易に近付くなんてあの人は配慮がなさ過ぎですね〉
マリンの心境を察してか、ユーリが溜息混じりに吐き捨てた。
「大丈夫よ。それより行くわよ! 早く媒介を壊さなきゃ先に進めないわ」
〈はい!〉
大きく大鎌を振り上げて一気に空を切り裂きながら振り下ろし、衝撃波で人型の術を数体消失させて、そのまま突き進む。
そして新たに生み出されたものに囲まれる前に再び鎌で
切り伏せ、進みながら媒介を探した。
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