『凄い』
「そんな掠り傷でどうにかなるとでも思っておるのか?」
老人が嘲るように鼻を鳴らすと、鎧人形が強引に鎗を振り翳してクレオに襲い掛かる。鎧人形が動くたびにクレオの波動が鎧人形を切り裂き、突き刺さり、抉るが、老人は止めようともせずに鎧人形は力強く鎗を突き出した。
クレオの波動の塊が鎧人形の力の分だけ深く突き刺さり、数箇所に皹が入った。
「確かに掠り傷じゃあ致命傷は与えられないけど痛いんだよ?
お人形で戦ってるおじいちゃんには分からないかも知れないけど」
クレオの言葉を逆に説けば、人間なら些細な痛みでも本能的に怯むことがあるが、人形は例え致命傷の被害を被っていても、攻撃の手段さえあれば自分の身など顧みずに攻撃を仕掛けてくるということだ。
確かにクレオの波動は鎧人形に突き刺さり傷付けてはいるが、動きを止めるには至っていない。この戦術で勝利を収めるのなら鎧人形の手や足を、最低でも鎗は破壊しなければ成立しない。
あの細かな塊では無理だと思った。
「痛みなど戦闘では不要じゃ」
迫る鎗を見つめて軽口を叩くクレオを、老人が口許を歪めて嘲る。
しかしクレオは余裕の笑みを浮かべたままで人形を見返すと、右腕に波動を集中させた。
辺りに漂っていた波動の破片がクレオの右腕に吸い寄せられるように集結していき、片腕が杭のような巨大な波動の塊に包まれた。
周辺に欠片になって浮遊していた波動は、そのひとつ一つがクレオの波動である。
クレオの本当の狙いは細かな破片群の中の誘い込むのではなく、すべてこの一撃を放つための布石だったのだ。
「凄い……」
クレオは右腕を覆う波動の杭を迫ってくる鎗に撃ち付けた。
空気を破裂させたような衝撃を駆け抜け、クレオの右腕を覆っていた波動の杭と、鎧人形の槍が正面から衝突して、双方共に木っ端微塵に砕け散った。
「相打ちかぁ……。やっぱり仕込みが足りなかったかな?」
自分の倍近くある大柄の鎧人形との激突はやはり負荷が大きかったのか、クレオは右手をぷらぷらと振りながら苦笑を浮かべた。
波動の込められた武器と言うのは、それだけで巨大な力を持つ兵器になると言われている。かつてあった大戦では、術者でなくとも手にすれば銃弾に波動を込められる銃があり、その銃撃には小型爆弾ほどの威力があったと伝えられている。
鎧人形の鎗撃には、軽く見積もっても銃撃以上の力があり、それを考慮すればクレオが受けた打撃はダイナマイトよりも強烈なものであったと推測できる。
それでも全く無傷でいられるのは、単純にクレオの一撃にそれを相殺するだけの攻撃力があったからだ。
マリンは改めてクレオの強さを見せつけられた気がした。
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