『人間のがずっと怖いよ』
生身の人間ならば術者でなくとも、いや、制御方法を知らない非術者の方が無自覚に波動を全身から放出している。
術を発動させる術者であれば波動を放つ箇所さえ固めてしまえば、相手がどんなに波動を高めても凝固するだけでそれ以上の放射はままならない。
だが、鎧人形のように内側でなく外側から波動を受けている場合は、どんなに固めたところですぐに剥がされてしまうのだ。
双方の違いは、波動を内側から増強するか、外側から注ぐかだ。
例えば目詰りしたシャワーはどんなに蛇口を捻ったところで水は出ないが、外から水を掛けてやれば簡単に洗い流すことができる。
人の体には、毛穴のように波動を放射できる場所は決められていると言われている。
しかし、当然ながら自らで波動を使っているわけではない人形にはそれがない。
クレオが劣勢になっているのも仕方のないことと言えるだろう。
それならマリンかユーリが人形を動かしている老人を直接攻撃して意識を奪うなどの方法で注がれる波動を断てばよいのだが、マリンは町の人を抑えていなければならないし、ユーリはクレオがどう勝つのか楽しんでいるように静観している。
「そうかなぁ? そんな大層なものには思えないけどな。
多分、生身の術者のほうがずっと怖いよ」
クレオが軽い口調で言いながら拳を握り締めると、鎧人形の回りに漂う波動が凝固して刃のようになり、鎧人形を取り囲んで動くたびに裂傷を刻む。
大気に散っていた波動は、老人の波動をクレオが固めたものである。
老人の波動をクレオが硬質化したものだ。
鎧人形は今、無数の刃と化したクレオの波動に包囲されているのだ。
一見無駄に見えたが、クレオがこれまで繰り返し行っていたのはこの状態を作るためだったのだ。
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