『私の可愛い人形を倒した訳ではあるまい』
「波動とは集中力と許容力で術の力が決まるんですよ? 単に集中力が足りないだけなのじゃないんですか?」
「むぅ……」
ユーリが小さく笑みを溢しながらクレオを茶化すように言うと、クレオはそれを実感しているらしく、ばつが悪そうに顔を顰める。
波動とは魂の力である。
人の肉体が老いて、朽ちていくのは、絶大な魂の力に肉の体が耐えられないからだと言われている。だから体を鍛えて魂の力を制御できれば、肉体を若く保つことができる。
許容力とは、肉体が魂の力を解放しても朽ちずに受け止められる状態のことを言う。つまりは、肉体を鍛えれば大きな波動を使うことも可能なのだ。
クレオはマリンよりも小柄でこれといって鍛えているようでもない。実戦で身につけたしなやかさはあるものの、小学生と変わらない体型をしている。
許容力は小さいのかもしれない。
マリンから見ればそれでも凄い戦いであったが、二人はそうは感じてないようだ。
一体どれだけの力を持てば二人は納得するのだろうと、マリンは内心で溜息を吐いた。
「なに無駄口を叩いている。まだ、私の可愛い人形を倒したわけではあるまい。
鎗を失ったところで、主らを縊り殺すくらいの力は残っておるわい」
老人が血走った目でクレオを見ると、鎗を無くした鎧人形に波動を注ぎ込んだ。
「ううん。もう終わってるよ」
血走った瞳で睨む老人をまっすぐに見据えて、クレオが静かに言った。
「なにを言って……!?」
「ご自分で止めを刺してしまいましたしね」
怪訝そうに瞳を尖らせて、クレオを睨みつける老人の言葉をわざと遮るようにユーリが冷ややかに言い放つ。
二人から見れば勝負はすでに決したようだが、マリンにはそうは思えない。鎗を砕かれたとは言ってもまだ鎧人形は健在だ。
それに対し、クレオは鎧人形の回りに漂わせていた無数の波動さえもさっきの一撃で吹き飛んでしまっている。
互いにまだ戦闘は可能だろうが、戦ったらクレオのほうが圧倒的に不利な状況だろう。それなのに二人の口ぶりからすると、クレオが勝っているようにしか思えない。
なにが起きているのか理解できず、マリンは鎧人形を注視した。
そして、鎧人形の体に無数の細かい皹が入っているのに気が付いた。
さっきよりも更に細かく砕けたクレオの波動が粒のようになって、関節や亀裂を始め、鎧人形の身体の周りを食い込むように覆っているのだ。
すでに波動を受け止めるだけの強度を失った鎧人形の体は、老人の波動を受ければ受けるほどに耐えられず亀裂が拡がっていき、それでも命令に従おう動いて、自らでさらに深くさせた。
破片をばら撒きながら首が落ちて、腕が割れ、地面に残骸を撒き散らしながら倒れると、最後は崩れて粉々になった。
「バカな……」
老人が信じられないとばかりに愕然とし、絶望の声を上げた。
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