『従う方は苦労しますね』

痛みや苦しみは、体の不調を教えてくれる危険信号だからね。

 人形の声を聞いて上げられなかったあんたの負けだよ」

 クレオが老人を見据えたままで、まるで諭すように語り掛けた。

「主人が無能だと従うものは苦労しますね」

 それに付け加えるようにユーリが意地の悪い笑みを浮かべて老人を嘲る。

「ぐぅ……」

 いまだに信じられないのか、それとも怒りや悔しさなのか、老人は鎧人形から視線を離さず喉で低く呻きを上げている。

 戦闘の意思はまだまだありそうだから、戦う次の手を探しているのかもしれない。

 ユーリやクレオは老人の出方を伺うようにじっと見つめていて、スーツ姿の男と少女は老人を助けようとしないで静観している。

 好機だとマリンは思い、中和が切れたのと同時に魔道具を取り出して老人に向けると、波動を閃光にして放射させた。

「はぁ!!」

「うぉっ……」

 マリンの声で気が付いたのかこちらに視線を向け、攻撃に気付いて蛇のような細い瞳を見開いたが、防御さえすることなく、マリンの放った波動の閃光は見事に老人を直撃した。

 完全に虚を突いたのだ。当然の結果だったが、狙い通りの結末にマリンは満足した。

 戦闘は無理でも意識は保ち毒を吐いてくるかと思いきや、人形の強さの割に老人自身にはそれほどの実力はなかったらしく、老人は意識を失って倒れた。

 クレオとユーリは老人に近付いて覗き込んだが、老人が動く様子はない。

 マリンも二人に駆け寄り合流した。

「こんなおじいちゃん相手に不意打ちとか、マリンって凄いことするんだねぇ……」

 いつもの糸目ににんまりとした笑みを浮かべているが、どこか顔を強張らせてクレオが言った。頭に大きな雫のような汗が見えてきそうだ。

「ま……、まぁ……、相手の隙を付くのは常套手段ですよ」

 ユーリはなにか思うところがあるのか弱冠顔を強張らせたが、やはりマリンを援護してくれる。付喪神は如何なるときでも所有者を大切にするものらしい。

 抵抗する力もない老人を不意打ちで退けたのは確かに卑怯だったかもしれないが、それを言うなら自分は戦わずに村人を操り、二体の人形使って、まるでゲーム盤の駒のように戦闘をする老人のほうが数倍卑劣である。

 二人の言いたいことも痛いほどに分かるがマリンに後悔はない。責めるなら幾らでも責めればいいと思った。

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