『私を見て!』
「私はユグドラシルじゃないわ。その関連の機構に身を置いているけど、ユグドラシルには属していない」
そこまで言い、自分はこんなことが言いたいのではないと、小さく失笑を洩らしてマリンはゆっくりと頭を左右に振った。
「ううん。そんなのは関係ないわね。
ユグドラシルもタロットも私たちには関係ないわ。あなたと友達になりたいの。
だから、私を見て!」
シャナはまるで怪物のような瞳を驚いたように見開くと、瞳から涙を溢れさせた。
その涙は水よりも透明で、怪物のものなんかではなく、紛れのない人の流すものだった。
「なにをしているのです! そんなのは口先だけに決まっているでしょう!!」
スーツの男が狂ったように喚き立てる。その姿からはさっきまでの余裕はもう感じられなかった。シャナはマリンを見つめたまま、象でも一握りにできそうな拳を握り締めると、真横に向けて突き出した。
クレオはそれを察し、俊敏な動きで背後に飛び退いてかわしたが、その先にいた、なんの対応もできずに驚愕に目を見開いただけの男の顔面に見事に炸裂した。
「ぎゃふっ!」
悪運が強く、シャナの腕が伸びきった位置にいたために当たったかどうかも微妙だったにも関わらず、スーツの男は訳の分からない声を上げると大袈裟に地面を転げ回った。
クレオが気の毒そうにスーツの男を見つめているが、シャナはもう気にも止めずに大きな腕をゆっくりとマリンに差し出してきた。
さすがにこの手で握ったらマリンの手が潰れると懸念して、握りはしなかったのだろう。
マリンは小さく笑いを洩らすと、目の前にある大きな手の中指を握り締めた。
その途端、シャナの指から全身に渡って亀裂が奔り、大小様々な破片となって体から剥がれ落ちていくと、風に吹かれていった。
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