『マリン!』

 大鎌になったユーリを下ろして構えを解くと、身構えるシャナに無防備で近付く。

〈イングヴァイさん!?〉

 敵を目の前にして戦闘を拒否したマリンに、ユーリが慌てて声を掛けてきた。

 シャナの波動砲の力はユーリも身を持って知っているし、中和を発動させたとしても、今のシャナに殴られたらマリンでは一溜まりもないだろう。

 ユーリが心配するのも良く分かる。

 だが、マリンには大丈夫だと言う自信があった。

「大丈夫よ。あの子は攻撃なんかしないわ。見てて」

〈それではとりあえずは静観させてもらいますが、危険だと感じたら援護しますよ?〉

「うん。そのときはよろしく頼むわ」

 マリンを気遣いながらも決して邪魔はしない。そんなユーリに感謝しながら大鎌を地面に突き立てると、マリンは両手を広げてシャナに歩み寄った。

 シャナは感情を感じさせない真っ赤な瞳を、見開いたり細めたりしているが、腕を動かすことはなく、固まったようにマリンを見返している。

「シャナ! さっきの返事を聞かせて……。さぁ……」

 マリンはシャナを見上げると握手をしようと右手を差し出した。あの深層世界での続きをしているのだ。

 あの時、シャナは確かにマリンの手を取ってくれようとした。今のシャナにマリンが睨んだ通りに理性があるのなら、絶対に手を取ってくれるはずだ。

 シャナは攻撃も威嚇もしないでマリンを見つめ、暫しの間の後、振り上げた手から力が抜けたのが分かった。もう大丈夫だとマリンはほっとして微笑みを深くさせた。

「なにをしている!? そいつらはユグドラシルだぞ!

 お前の生きる意味を忘れたか!!」

 シャナが瞳孔のなくなった瞳を見開くと、一度力が抜けた手に再び力を込めて攻撃態勢に入った。

 また、あのスーツの男だ。あの男の言葉にシャナは過剰に反応してしまう。

 シャナにとって、あの男の言葉は呪縛のようなものなのだろう。

 これから、マリンと楽しい生活を掴む為には、シャナが自分であの男の呪いを断ち切らなければならない。でなければ、シャナは本当の意味で自由になれない。

「イングヴァイさん!」

「マリン!」

「大丈夫!」

 周囲から聞こえてきたユーリとクレオの声を短く制しながらも、マリンはシャナから視線を外さずに見つめた。

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