『 』
「そんな……」
目の前で崩れていくシャナを愕然として見つめ、マリンは唇を震わせて呟いた。
「無茶な変貌を遂げた結果でしょうか?」
背後からユーリが近付いてきてマリンの隣に並ぶと静かに言った。
だが、シャナが望んであんな怪物になったわけではない。あの男に薬を打たれて無理やりに変身させられたのだ。
それなのに、こんな結果を迎えなければならないのは理不尽だ。
「なんで……。どうして……」
マリンは切なくなさと悔しさとやりきれなさが込み上げてきて、脚から力が抜けてしまい、その場にへたり込んでしまった。
せっかく掴んだシャナの手が、幻のように消えてしまったような気がした。
「マリン!」
突然、クレオに弾んだ声で呼ばれてマリンは顔を上げると、クレオが驚いた顔で砕けていくシャナを見つめている。
どうして今更そんな声を出したのだろうと不思議に思い、マリンもどんどん削られるように散っていくシャナを見ると、怪物の胸部から白くて細い手が二本飛び出している。
マリンがハッとなって立ち上がり、波に攫われる砂の城のように時間と共に小さくなっていくシャナだったものに駆け寄った。
怪物だった体が崩れていくに連れ、最初は手だけだったシャナが徐々に姿を現していき、全身が浮き彫りにされると支えをなくして落下した。
地面に叩きつけられる寸前でマリンがどうにか間に合い、両手で抱き止めた。
薬を討たれる前の、そして深層心理の世界で出会った、人形と見間違えるばかりの小さくて可愛らしい少女だ。
「シャナ!」
怪物に変貌したときに破れてしまったのか、一糸纏わぬ姿の彼女を受け止めると、そのまま抱き締めてマリンはその名前を強く呼んだ。
迂闊にも目尻から涙が溢れてきたが、今はそんなことはどうでも良かった。
ただ、ただ、シャナとこうしていられるのが嬉しくて抱き締めていたかった。
腕の中で小さく身動いたのが分かり、マリンは体を少しだけ離してシャナを見つめる。
「ん……? なぁに?」
シャナは微笑んでマリンを見上げ、小さくゆっくりと口を動かした後に、糸が切れた人形ようにガクンッと体から力が抜け落ちた。
声はなかったが、その口が『マリン』と動いたのが分かり、マリンは堪らなくなって再びシャナを強く抱き締めた。
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