『波動?』
「ダメですよ、イングヴァイさん。私よりに先に逝くなんて……。
私の使用者になった以上、私が消失するまで付き合ってもらいます」
ユーリの言葉が耳から脳に染み込むように浸透していく。
それと同時にユーリの身体が温かくなり、その温もりがマリンの身体に染み込んできて満たしていく。
うっすらと瞳を開けると、ユーリが普段は見せない優しい微笑みを浮かべながら、全身から薄紫の光を放ってマリンを見つめていた。
その光がマリンに移り、身体を包み込んでいる。
(波動?)
波動とは誰の中にでも宿っている魂の力である。
その力は扱うものによって、魔力、妖力、神通力などと名を変えるが、本質的には同じものである。
そして魂とはこの世の全てのものに宿っている。
人間にも、動物にも、植物にも、もちろん、神や妖怪にも……。だから、元はただの鎌だったとしても、九十九年間存在し続け、魂が宿り、付喪神になったユーリが波動を持っていても少しも不思議ではない。
波動を扱うことで身体能力を遥かなる向上を齎し、超常現象をも引き起こす強大な力を手にすることができるが、それ以外にも上級者になると自らの波動を他人に注いで、生命力を分け与えることができるものもいる。
即死や天命を全うするものや、病による死に対しては、どれだけ波動を注いでも垂れ流しの状態になってしまうが、まだその生命が尽きるときではない命ならば、提供された波動を受け入れ回復することができるのだ。
無論、癒しや回復を扱う術者のように、傷を治癒ことはできないが、命を繋ぎとめることはできる。
マリンの魂はユーリの波動を受け取ることができた。
どんどんと体温が上がっていき、痺れた体に感覚が戻ってくるのが分かる。ズキズキとした痛みが体の奥底から込み上げてくるが、今はそれさえもなんだか嬉しく感じるのだから不思議である。
生きているという実感ができるからだ。
「んっ……、うぅ……」
「だめですよ。ジッとして……」
痛みに耐えられず身動ぎするマリンを抱きしめて、宥めるように囁くと波動を流し込んでマリンの回復を促してくれる。
しかし、痛みに苦しむマリンを見て楽しんでいるように見えるのは思い過ごしだろうだろうか?
「はぁっ、んっ……」
体の痛みが引いていくと、体の奥底が柔らかな光に包まれているような安らぎの一時が訪れた。まるで体の中心に温かな木漏れ日を注がれているようなそんな気分だった。
魂が陽だまりで日向ぼっこをしている感覚だ。
それがあまりにも心地良くてマリンは身を任せていたが、不意にその温もりが途絶えた。
「もう大丈夫ですね」
ユーリがマリンの髪を撫でながら囁くと、微笑みを浮かべて見つめている。
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