『言ってくださればよかったのに……』
どっちにしても、相手にこのまま此方を逃がしてくれるつもりがないのならば、戦って勝つしかない。中和が効いている内は仕掛けてはこられないだろうが、そう長い時間を保つことができない。中和の効力が切れたときに備えてマリンは唇を噛み締めた。
「岩山を崩して足止めをするのではなくて、始めから中和をする計画だったのですね?
言って下されば良かったのに……」
手足の鎌化を中和され、ただの少女となったユーリが、岩山に飛び乗ってマリンの右側に立つと、黒くて艶やかな長い髪を靡かせて微笑んだ。
「ああ、ごめん。話している時間も惜しかったから」
マリンは視線だけをユーリに向けて素直に詫びた。やはり作戦をちゃんと伝えなかったことに弱冠の罪悪感があったのだ。
「私は気付いていたよ? マリンなら中和を使うって」
クレオもぴょんと岩山に飛び乗ると、左側に立ってにんまりと笑った。
「だいたい予想は付くでしょう。自慢にはならないわよ」
マリンが横目で視線を送って小さく呆れて肩を竦めて見せると、クレオは『えへへっ』と小さく照れたように笑った。
遠くに立つ着物姿の老人と、スーツの男を中和の光の中から三人は見つめた。二人からさらに離れたところには、あの金髪の少女も立っている。
少女は無言で此方をジッと睨みつけていた。
「中和が切れたら襲ってくると思う?」
「来るでしょうね。どうやらイングヴァイさんを生け捕りにするらしいですし」
「怖くなった?」
マリンの何気ない問い掛けにユーリが冗談っぽく笑みを浮かべながら脅し、クレオが小鳥のように小さく小首を傾げて聞いてくる。
「まさか。どうせ避けられないなら、待ってないでこっちから攻めようと思っただけよ」
マリンは小さく笑みを浮かべると岩山から飛び降りて中和の光から飛び出した。
「先んずれば人を制すですね。お供しましょう」
ユーリがくすりと喉を鳴らすと、マリンに続いて岩山を飛び降りた。
「勝たないとね」
能天気にクレオが軽く言うと、二人の後に続いて来た。
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