『岩山に誘い込めない?』
「この人たちを切り伏せて良いのならあっさりと勝負は付くのですけどねぇ」
少し離れた場所からクレオの様子を伺っていたユーリが不機嫌そうに言い捨てた。その口調には、もしもマリンかクレオが許可したら本当にやりかねない危うさを含んでいる。
「そんなことしたら本末転倒でしょう? 何のために来たのよ!」
冗談で済ませる相手だったらマリンも同意をしているところだが、それで行動に出られたら止めている余裕はない。今は全力で阻止しておくべきところだ。
「分かってますけど、あの人たちをどうにかしないことには助けることもできませんよ?」
確かにその通りである。操られたままで連れて行こうとすれば、背後から刺されるのが関の山だ。今は町の人たちの洗脳を解くのが先決である。
「私に考えがあるわ。岩山に誘い込めない?」
「なるほど。岩山の狭間に誘き寄せて、岩を崩して行き手を阻み袋小路にしておいて、その隙に術者を倒すのですね? 分かりました。やってみます」
確かに岩山で行き手を阻めば、いくら操られていると言っても普通の人間ならば乗り越えるのに時間が掛かるだろう。ユーリの言う通りその間に術者を倒すことも可能だ。
だが、マリンの真意は別のところにあった。
「まぁ、そんなところね」
相変わらず過激なことを考えるな、などと苦笑を浮かべながら、説明する時間を惜しんでマリンは同意しておく。
「私とあの人で岩山まで誘い込みますので、イングヴァイさんは待っていてください」
ユーリは快く引き受けると、まるで町の人と鬼ごっこをしているように老人の様子を伺いながら、町の人をかわしているクレオの元へ向かった。
「うん。頼んだわよ」
弱冠、騙しているような気分になって心苦しかったが、結果を出せばユーリも納得するだろう。マリンは頷き返すと一足先に岩山へ向かった。
準備と言っても意識を集中するだけなのだが……。
ユーリはクレオに近付くと、軽く声を掛けて町の人々と対峙する。老人が笑みを濃くすると町の人は二手に分かれて、それぞれクレオとユーリを追い掛け始めた。
二人が左右に分かれて老人から離れると、町の人たちは分断して二人を追って行く。
クレオは右に、ユーリは左に大きく弧を描くように駆けながら町の人たちを引き連れて、マリンのいる岩山に駆け寄ってくる。
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