第44話『巻き込んでごめんね?』

 立ったままで乗るジェットコースターの背凭れのようなものを付けられると、革のバンドで固定され、最後に寝袋のようなものを頭から被せられた。

 寝袋は頭から膝下までをすっぽりと包み、ファスナーを閉められると外気を一切感じられなくなり、真空パックにでもされた気分になった。

 視界を奪われたところに、体の数箇所をバンドのようなもので留められ、強く締め上げられると甲高い金属音が響き渡り、次の瞬間、不意に体を吊り上げられたような浮遊感に襲われた。

 視界を塞がれているため辺りのを様子を伺うことはできなかったが、大きく振られて自分は宙に浮いているのだと実感すると、景色が見えないの事が少し残念だった。

 カチッっと金属音が響いて上昇が止まり、横に引き寄せられると宙を蹴っていた足が床に着き、被せられた寝袋のような袋のファスナーが開けられた。

 軍艦の中は無機質で、旅客船しか知らないマリンの瞳には寒々しく映った。

「どうしたの? マリン。脚が痛む?」

 始めて乗る軍艦の放つ重圧感に押し負けて、その場で佇んでしまったマリンに背後からクレオが声を掛けてきた。確かに足は痛いが立ち止まっていた理由はそれではない。

「んーん。なんでもない」

 心配そうに聞いてくるクレオに笑顔で返すと、軍人の誘導に従って、二人は乗組員の待機席の最後尾に並んで腰掛けた。

「ああ……。なんだか、やっと一息って感じだね……」

 隣からクレオが苦笑を浮かべ、だが、安心したように小さく言った。

「なんだか、学校を出てから数時間しか経ってないなんて信じられないくらい疲れたわよね……」

 マリンも肩を軽く竦めると、小さく笑みを浮べて溜息と一緒に吐き出す。

「巻き込んでごめんね?」

 座り心地が良いとは決して言えない座席に腰掛けたままで罪悪感を抱いているのかがっくりと項垂れ、ポツリポツリと消え入りそうな声で呟いた。

「私が勝手に巻き込まれたんじゃない。そんなの気にしないの……」

 あまりにもしょげているクレオが心なしか可哀想に見えて、マリンは軽く笑い飛ばしながら元気着けようとクレオの肩を叩いた。

 するとクレオの身体が大きく傾き、まるで糸の切れた人形のようにマリンに寄り掛かるように倒れてきた。

「ちょっと!? どうしたの? そんなに強く叩いてないでしょう?」

 マリンの肩に凭れたまま動かなくなったクレオに、どこか傷が痛むのかと慌てて声を掛けたが、クレオからの返信はなく、規則正しい寝息を立てていた。

 ただ、眠っただけなのだと分かると、なんだか可笑しくなってマリンは笑いが零れた。

 肩に感じるクレオの温もりに安堵を覚えると、蓄積していた疲労と失われた体力にマリンも睡魔に襲われ、そのまま眠りに落ちていった。


 二人の眠りは深く、学園に着くまで目が覚めることはなかった。

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