第45話『無理はしないでいいですよ』

 昨日の夕方、アニマムンディの軍艦に送られてから部屋に戻り、一度も起きることなく朝を迎えていた。傷は眠っている間に手当てがされていたが、力と体力の消耗が激しく、ベッドから起き上がるのも困難な状態だった。

 ギシギシと悲鳴を上げる体を無理やりに動かし制服に着替えると、ノルンの肩を借りて食堂へ行き朝食を取って学校へ向かった。

 普段は当たり前に往復している通学路も今日はやたらと長く、辛い道のりだった。

 地面を踏みしめる度に全身に痺れが走り、いつもならなんとも思わない勾配や路面のでこぼこも今日はまるで障害物のようだ。ノルンが支えてくれていなかったら、部屋から出ることもできなかっただろう。

「イングヴァイさん。お早う御座います。どうしたんですかぁ? 昨日お休みしたと思ったら、今日は今日で朝から疲れきってますねぇ?」

 背後から聞えてきたユーリの声に、振り返って挨拶を返そうとしたが、体を少し傾かせただけで体中に激痛が駆け抜け、マリンは痛みを堪えて追いついてきたユーリに笑顔で挨拶を返した。

「おはよう。ちょっと、あったのよ……」

 自然に、いつも通りに、を心掛けたが、頬は引き攣り、筋肉がぴくぴくと痙攣しているのが分かる。おまけに声は震え、涙が溢れ出しているのか視界がぼやけている。どうやら平静を装うには無理があるようだ。

「む、無理はしないでいいですよ……」

 ユーリが、いつもの何を考えているのか分からない口許だけの冷ややかな笑みではなく、本当に苦笑を浮べて嗜めてきたところを見ると、よっぽど酷い顔をしているのだろう。

 マリンは深く考えないようにして、声を掛けられて足を止めてくれたノルンに『もういい』と意を込めて小さく頷き促すと、再び学校に向かって歩き出した。

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