第52話『なんの関係があるの?』
「んぅ? いやいや。私はマリンと同じぴちぴちの十三歳だよ? 特殊能力はもう使いこなせるから学園には通ってないの。勉強も独学だけどしてるから大丈夫。
今はユグドラシルに籍を置いて勉強してるとこ」
「あら、ユグドラシルの方なんですか……。あまり良い噂は聞きませんね?」
「うん。酷いよね。世間じゃあ過激派扱いされてる。
人間に復讐とかそんなの考えてないんだけどなぁ……」
相変わらず思考を読ませない笑みを浮べて、何食わぬ顔で挑発をしているようなユーリの言葉を、クレオもなにを考えているのか分からないにんまりとした笑みを浮かべて見返すと、のらりくらりと挑発を受け流している。
なにを言われても感情的にはならないところは、さすが道化師の娘と感心するところではあるが、傍で見ているマリンには、狐と狸が化かし合いに見えた。
「それではユグドラシルとはどんな組織なのですか?」
「んぅ? 家族みたいなものかな?」
「その割には、頻繁にあちらこちらで揉めごとを起こしているようですね?
家族で暮らしていくにしては武力を持ち過ぎではありませんか?」
「本当はみんな戦いたくなんてないんだけどねぇ。勝手に怖がって脅威に感じて、人間が攻撃してくるんだから仕方がないよ。
かっこよく言うと守るための強さかな?」
「あはは。本当にカッコウイイですねぇ? そんな守ル為ノ強サを持っているのに、イングヴァイさんにあんな大怪我させちゃうなんて」
それまで糸目でにんまりとした笑みを浮かべて、相対していたクレオの表情が凍りついた。
この傷は誰のせいでもなく、自分から勝手に巻き込まれてできた怪我なのだが、どうやらクレオは責任を感じているようだ。
そのクレオにとって、ユーリの言葉は心に棘のように突き刺さっただろう。
「ちょっとユーリ! この怪我はクレオのせいじゃないわよ!」
気付いたらユーリの勝手な言葉にマリンは声を張り上げていた。
さらに事情も知らずに好き放題に言葉を繰り出すユーリを咎めようとしたが、ここでも道化師は娘を助けようともせずにマリンの肩に手を置くと頭をゆっくりと左右に振る。
それが、止めろと言っているのだと言うことは分かる。だが、なぜ止めるのか理解ができなかった。
「それでも、一緒にいながら怪我をさせてしまったのは事実でしょう?
仮にもこれから私たちの先導者になる人が、それでいいのでしょうか?」
先導者とは班の先頭に立ち、メンバーを率いる責任者を示す言葉である。メンバーを守る義務と、纏める統率力が求められる。
ユーリは遠回しに、クレオに先導者に成り得る実力があるのかと問いているのだ。
「確かに私の問題に巻き込んでマリンに怪我させちゃったし、悪いと思ってる。
アドちゃんの治癒力なら簡単に治せるだろうけど、そういう問題じゃないって分かってる。マリンには謝っても謝り足りない……」
クレオは俯き、拳を握り締めたまま体を小さく震わせて、絞り出すように吐き出した。
だが次の瞬間震えが止まり、全身から怒気を孕んだ激しいオーラを解き放つと、上目使いでユーリを睨みつけた。
「だけど、それがあなたになんの関係があるの?」
そして、それまでとはまるで違う、背筋に冷たいものが這い上がってくるような、声音で冷ややかに言い放った。
膝まである黒くて長い髪が風に吹かれたように広がり、始めて見る怒りを含んだ瞳は、波動のせいか光っているようにさえ見える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます