『奴には勝てんじゃろ』

 味方であるから強気で頼もしいものに聞こえるが、もしも敵として相対したのなら、ふてぶてしくて癪に障っただろう。

「そうでなくてはな。ワシの人形が波動術者を相手にするのは始めてのことじゃ。

 もう少し頑張って貰わぬと、なんの足しにもならぬ」

 老人は見るものの八割を不快にさせるであろう嗤笑を浮かべると、待機していた絡繰人形がカチャリと音を立てて顔を上げて、ユーリに向けた。

 人形である絡繰人形に表情などあるはずがないのだが、マリンには絡繰人形が笑ったように見えた。幾ら魂の力である波動を注いでいるとは言え、まるで本当に老人が乗り移っているように思え、マリンは薄ら寒いものを覚えた。

 絡繰人形はユーリが爆煙に包まれている間に元の場所に戻した腕を振り翳すと、五本の指から鉤爪のような爪が飛び出した。

 その腕を眼前で構えると、地を滑るように猛進してユーリに肉迫する。

 ユーリは大鎌の柄を長く持って大きく横一閃に振り、絡繰人形を切り裂こうとしたが、絡繰人形は爪の生えた手で受け止め、鈍い音が響き渡った。

 だが、異変はその直後に起きた。

 絡繰人形の腕に無数の亀裂が入り、竹のように割れて砕け散り、纏っていた老人の波動も蛍火のようになって拡散した。

「なんじゃと……!?」

  老人が腕を砕かれた人形を凝視すると、信じられないと言った風に声を震わせた。

「如何です? 新しい世代の力は? 馬鹿にしたものではないでしょう?」

 ユーリは手元で大鎌を弄ぶように回転させると握り直し、今度は縦に大鎌を振り下ろして、大きく開かれた口と腹から波動を放とうとしていた絡繰人形を切り伏せた。

 老人の波動も一緒に斬り裂かれ、光る砂のように辺りに飛び散り、絡繰人形はまるで痙攣する人間のようにガクガクと震えながら地面に崩れ落ちて、動かなくなる。

 ユーリは動かなくなった絡繰人形の頭を踏み砕くと、大鎌を老人に向けて不敵に笑った。老人は苦虫を噛み潰したような顔で忌々しそうにユーリを睨みつけると、ギリギリと歯軋りをしながらもすぐに口の端を吊り上げた。

「じゃが、奴には勝てんじゃろう」

 二体の一機が破壊されたと直後だというのに、何処から自信が来るのか老人が勝ち誇った口調で言うと、鎧人形の兜の奥、人間が装備をしていたら目があるであろう位置で激しく二つの赤い光を煌き、クレオから視線を外してユーリに向けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る