『大丈夫です……』

「どうすればいいの? やり方をおしえて」

 マリンは大鎌を手の中で回して、握り締めて身構えるとユーリに問い掛けた。

〈そのまま波動を高めてください〉

 マリンは言われるままに大鎌を構えたままで波動を高めた。

 ほんの数分前まで波動を感じることさえままならなかったのに、大した成長だと頭のどこかで自画自賛している。

〈そうです。その波動を私へと流し込み、刃に固める姿をイメージしてください。

 そうですねぇ、波動で刃を輝かせると言ったほうが分かり易いでしょうか?〉

(波動を刃に流し込んで、輝かせるように固定する)

 マリンは波動を操作しながら言われた通りに刃に集中させて、呼吸を整えて安定させていく。

 人型がマリンの包囲をゆっくりと狭めていき、今にも襲い掛かってきそうだ。

「あんたたちはちょっとストップ。マリンがなにかするみたいだからね」

 クレオがマリンの前に飛び出すと、波動を発動させて人型を固めていく。

 正直、今は人型の相手をしている場合ではなかったが、それを言ったところで攻撃を止めてくれるはずもなく、どうしようかと困っていたところだったため非常に助かった。

 これでマリンは術に集中することができる。

〈うっ!〉

「ユーリ!?」

 不意にユーリが低く呻いた声が聞えて、マリンは慌てて波動を止めて声を掛けた。さっきといい、今といい、マリンが波動を流し込む度に、ユーリを苦しめているようだ。

 もしかしたら、マリンの波動の扱いが可笑しくて旨く波長が合わないのかもしれない。

〈大丈夫です……。なんでもありませんので続けましょう〉

「だけど……!」

〈後で、少し休めばすぐに回復しますので大丈夫です。

 それより今は、鎌術の大技に集中してください。失敗したら、それこそ私とイングヴァイさんの努力が水の泡です〉

「……。分かった……」

 マリンは悩みながらもユーリの言葉に従うことにした。今、少し無理をさせてしまったとしても媒介さえ壊せれば幾らでも休む時間は取れる。少し休めば回復すると言うのなら、今はユーリの言葉を信じるべきであろう。

「行くわよ!」

 一声掛けてから、マリンはさっきと同じように鎌に波動を流し込み、刃に固定させる感じで意識を集中させる。

〈そうです……。その調子です……〉

 ユーリが、やはりどこか苦しそうな声でマリンに訴えてくる。

 緩やかに大鎌の刃を包むように流れていた波動が急激に膨れ上がり、激しく波打つ。マリンの波動にユーリが自分の波動を上乗せしたのだ。

 新たに加わった強烈なユーリの波動に圧倒されて、マリンは大鎌を落とさないように握り締めているのでいっぱいだ。

〈もう少しです。頑張ってください〉

「ええ……。わかったわ……」

 ユーリの言葉に大きく頷くと、両足に力を込めて踏ん張る。

 最初は大鎌の先端を巨人にでも掴まれて揺さぶられているかのように振り回されていたが、時間が経つに連れて安定していき、今ではしっかりと支えることができた。

 二人の波動が安定してきた証拠なのだろう。

 それから程なくして、鎌が巨大な力の塊になったような錯覚に陥った。

〈完成しました。さぁ、これまで敵の術を薙いで来たように、媒介を切るつもりで思いっきり振ってください〉

「行くわよ!」

 ユーリの言葉に大きく頷くと、足に力を込めて地を強く踏みしめ、全体重を乗せて体を撓らせ、全力で大鎌を横一閃に振った。

「たぁああああああ!」

 大鎌の刃がスパークしたようにプラズマを放ち、刃を覆っていた波動が三日月型の光となって、周囲にいた人型の術を切り裂いて、塵に変えながら媒介に向かって撃ち放たれた。

 それと同時に大きな破砕音を大鎌が発し、マリンはハッとして瞳を見開いた。

 波動の刃は空を切り裂き、媒介に直撃するとそれをも容易く粉砕させて、背後にあった巨大な岩山に突き刺さると、獣が木の幹で爪を研いだような痕を残して消失した。

 切り裂いた媒介から一呼吸置いて黒い煙のように波動が流出していき、それと同時に辺りを囲んでいた人型からも黒い煙が立ち上がると頭から削れるように消失していった。

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