『じゃあ私も!!』
〈鎌の扱いも大分上達しましたね〉
「そう? ありがとう」
斬っても斬っても一向に数の減らない人型が相手では、上達をしているのかどうかも分からないが、ユーリに言われると成長しているのかと思えてくるから不思議だ。
もしかしたらマリンに自信を持たせるために言った言葉なのかも知れなかったが、素直に嬉しかった。
「んぅ? ねぇマリン、どうして戻るの?」
引き返す途中ですれ違ったクレオが目を丸くさせて問い掛けてきた。
「人垣は超えたけど媒介を見つけられなかったの。
壊さないと後々厄介になりそうだって言うから探すわ」
人型の術、数体を大鎌の一振りで粉砕させながら進路を切り開くと、クレオに一声掛けてそのまま駆け抜けた。
「じゃあ私も!」
クレオは周りの人型を術で固めると、踵を返してマリンの後を追い掛けてくる。
「こっちにあるか分からないから……、うっ! なに?」
後に着いてくるクレオに、「とりあえず人垣が切れるまで進んで」と伝えようしたとき、直接脳になにかが突き刺さったような痛みを感じて、コメカミを押さえて立ち止まった。
〈結界に敵の媒介が引っ掛かったようですね。痛みがどこから来るか分かりますか?〉
「これが、そうなの?」
〈最初は驚きもあって辛いかもしれませんけど、すぐに慣れますよ〉
「そう……。これが空間認識力……」
〈はい。今なら分かるでしょう? それで媒介は何処にあるのですか?〉
武器として一緒にいるのに、ユーリには感じられないことにマリンは違和感を覚えたが、なんでそう思ったのかは分からなかった。
「こっち」
マリンは大鎌を振り回しながら、超音波のように脳を揺さぶってくる何かがある方向へと歩き出した。
人の形をした敵の術が、思考を持たないのだから当たり前だが、懲りもせずに人波を作って押し寄せてくる。
マリンは大鎌を振って一撃で粉砕するが、媒介はマリンが壊すたびに新しい人型を生み出し、行き手を阻んできた。
視界一杯に広がる、百に近いであろう人の形を為す敵の術に、マリンは鎌を振ることさえできなくなって、後ろへ跳び距離を取る。
少しでも媒介に近付きたいところではあるが、身動きが取れなくなっては、例え目の前に媒介があったとしても破壊はできない。
それどころか密集された状態で爆発をされたら、命の危険さえもある。媒介を壊すどころの騒ぎではないのだ。
人の姿を象る敵の術は、当然だがそんなマリンの気などお構いなしで、ゆっくりと包囲するように近付いてくる。
「ユーリ、武器化を解いて時間を稼いで。中和するわ」
大鎌の扱いが上達しているとはいえ、この人数を相手にしながら媒介を壊すのは不可能だと悟り、今できる最善の策を提案した。
〈ここで中和をするとして、媒介は中和の内に入るのですか?〉
「えっ? それは……」
マリンは中和の範囲とさっき感じた媒介の位置を思い浮かべ、脳内でシュミレーションしてみたが、残念ながらここからでは無理のようだった。
「ダメ……。届かない……」
マリンは小さく頭を左右に振ると、感じたままを素直に話した。
〈それなら中和を使うのは得策ではありませんね。確かに敵の術は消失させることができますが、媒介を中和できないのならば私が武器化を解くのは最善ではありませんね。鼬ごっこになるのが目に見えて分かります〉
確かにユーリの言うことは通りだ。媒介を壊せない以上、どんなに敵の術を中和しても、中和が切れれば術はまた発動する。それを繰り返すだけなのだ。
「だけど!」
〈イングヴァイさんは飛ぶ斬撃と言うものを見たことがありますか?〉
今はそれしか方法がないと言い掛けたとき、ユーリが問い掛けてきた。
「飛ぶ斬撃? 遠くのものを切れるの?」
〈はい。これならあの術もろとも媒介を斬れます〉
「そんなことが本当に……?」
〈できます〉
マリンの疑問を打ち払うように、ユーリは強い口調できっぱりと言い放った。
その言葉で、マリンはユーリを信じ強く頷いた。
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