『資格がないのです』

〈いいのですよ? イングヴァイさん。私には治癒なんてしてもらう資格がないのです。

 以前もイングヴァイさんと同じように、術を使うたびに内側から砕けていく私を気遣って下さり、同じように治癒してくださった人がいました〉

 ユーリの声は静かで、自嘲染みた響きを宿していた。火事のときに助け、その後ユグドラシルへ行った、スケェルス=アインのことだとマリンは悟った。

〈だけど彼の術が私に届くことはなく、次第に彼は自我が弱くなってどこか虚ろになっていきました。最後は意識不明にまで等々って、段々と植物状態になっていきました〉

 ユーリの声は淡々としているが、感情を押し殺して敢えて毅然と振舞っているのが分かる。付き合いは短いが、こうして心で触れ合っているせいか、いつの間にか感じられるようになっていた。

 ユーリは彼をああしてしまったのが自分であるのだと思い悩んでいるのだ。

 〈きっと、人を殺めるためだけに作り出されて、その目的を果たすために多くの命を奪ってきた私には、もう生きていくことは許されないのでしょう〉

 そう締め括ったユーリの声色は自分の死を受け入れているようであり、全てを諦めているようであった。しかし、その中に、どこか安堵さえも伺えた。

 マリンの脳裏に、スケェルスを中和したときのことが蘇った。あの時ユーリの中でなにかが弾け、スケェルスに戻って言ったのをマリンは見た。

 あれが何だったのかマリンには分からない。ユーリの言う通りスケェルスの精神や魂なのかもしれない。だが、ユーリの言っていることは可笑しい。

 武器として生み出された以上、本人の望みとは関係なく人を傷付けているはずだ。

 ユーリの思いが正しいのだとすれば、武器として生み出された付喪神はみんな生きていくことが許されないことになってしまう。

 マリンはユーリとは少し違うが、武器として生きながらもちゃんと幸せになっている人を知っている。武器だから許されないなんてことはないはずだ。

 ならばなぜ、ユーリだけがこんなに苦しまなければならないのだろうと考えたとき、マリンの中である仮説が生まれた。

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