『あなた自身よ』
「私やその人の術が届かないのは、あんたが拒絶しているんじゃないの!?」
マリンは奥歯を噛み締めると、大鎌を強く握り締めて叫ぶと同時にこれ見よがしに大量の波動を注ぎ込んだ。波動は変わらずユーリを癒すことなく、乾いた砂に吸われる水のように一瞬でどこかに消えてしまい、またもや魂を吸われたような倦怠感に襲われたが、それは予想通りであり、覚悟の上だ。
〈イングヴァイさん。ダメです。それではあの人の二の舞です!
私のことはもういいですから!〉
ユーリの悲鳴のような声が頭の中に響き渡ってきた。だが、その言葉が一層マリンの感情を逆撫でしてくる。
「ふざけないで! 許されないとかもういいとか、勝手なことばかり言ってるんじゃないわよ! あなたを許せないのは、他の誰でもないあなた自身よ」
ユーリが息を飲み込んだ声が聞こえた。なにか思い当たる節があるのだろう。
マリンは自分の思慮が間違っていなかったことを確信して、やはりかと深く息を着いた。波動が精神の力である以上、敵意を持って接すれば強力な攻撃となり、優しく癒そうとすれば治癒になる。マリンそう想定した。
だから攻撃をされれば拒絶して身を守るし、癒しを受け入れればさっきのクレオのように心地良く感じるはずだ。
だがユーリに癒しを使うと、波動はユーリを素通りするように、なんの手応えもなく何処かへ消えてしまう。
マリンはそれを、ユーリが癒しを拒絶しているからだと感じ、間違いではなかったようだ。
〈だって、それは……。普通はそうでしょう? 私はこれまで、武器として夥しいまでの人たちを、恨みもないのに殺めてきたのですよ? ただ……、武器というだけで……。
時には使用者の精神さえも操って、戦いに駆り立てたこともありました。こんな私はもう、いないほうがいいのです〉
嗚咽混じりの声でユーリはマリンの頭の中に叫んだ。今にも泣き出してしまいそうな悲痛な悲鳴に、マリンはようやくユーリの心の声を聞いた気がした。
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