『ちょっ、やっ!!』

 まだ沈むには時間がある夕日をぼんやりと見つめながら、落胆を隠せずに、気持ちを切り替えられないで途方に暮れていると、上から小さな小石が落ちてきた。


 この上には屋根しかないはずだ。マリンは不思議に思って上を眺めた。

 屋根の上から制服を着たシャナが見下ろしていて、ただでさえ大きな青い瞳を転げ落ちそうなくらいにまで見開いたまま、固まったように微動だにしない。


「シャナ!!」


 マリンが名前を呼ぶと、シャナはビクリッと小さな体を電流が走ったかのように大きく震わせ、固まっていた表情がひまわりが咲いたような、満面の笑みへと変わっていく。

 しかし脅かせてしまったらしく、シャナは体制を崩してしまい体を大きく揺らめかせた。


「ちょ! やっ!!」


 マリンは言葉にならない悲鳴を上げ、シャナの落下地点を予測して抱き止めようと、大きく両手を広げてそこに移動する。

 するとそこに、体制を立て直すのは無理だと悟ったのかシャナが自ら飛び込んできた。

 マリンはシャナを受け止めることに成功し、力強く抱き締めたが、さすがに屋根から飛び降りた人、ひとりの身体は支えきれず、勢いに押し負けて仰向けで倒れていった。


(せめて頭だけでも!)


 二人分の体重とシャナの飛び降りた勢いを受けたまま、床に背中から激突するのを覚悟して、マリンは頭だけは打たないようにと首をできるだけ前傾させた。

 このくらいの勢いならば背中を打ちつけても、打ち身くらいで済むだろうが、頭を打ちつけてしまったらそうはいかない。深くまでは考えてたわけではないが、咄嗟に守らなければと本能が伝えてきたのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る