『中和能力者は誰かな?』

「たぁああああ!」

 狙いはクレオに銃を向けているため、マリンに背を向けた格好になっている男だ。

 マリンは空中で魔道具を抜き放ち、赤い雷撃の波動を発動させると棒状に安定させて男の背中に打ち付けた。赤い電撃が男の全身を駆け抜け、男は意識を失いその場に倒れた。

 次の相手を探して周囲を見ると、ユーリが一人を切り伏せ、クレオが二人を波動で固めて身動きを封じた後だった。

 遠くから同じ服を来た男が三人、銃を構えると発砲してきた。

 だが学園で常日頃、得体の知れない特殊能力を使う聖獣や魔獣を取り締まっているマリンにとって、時速数百キロで撃ち出されるだけの鉛の弾丸をかわすのなど他愛のないことだ。特殊能力とは違い中和は効かないが、ただ、弾道から逸れれば良い。

 男が銃を撃つと同時に右へ左へと移動を繰り返し、素早く駆け寄りながら魔道具を振り翳す。

 跳躍して一気に距離を詰めたいところだが、空中ではステップができなくなるため、腕のいい狙撃手が相手では恰好の的にされてしまう。ここは地道に距離を詰めるべきだ。

 撃鉄が火薬を叩いて銃弾を吐き出すところから、迫ってくる銃弾まではっきりと目視することができる。魔道具で叩き落すのも可能かも知れないが、一時的とはいえ走る速度が落ちてしまう。

 ここは一気に攻めるほうが得策である。

 マリンは銃弾をかわしつつ男に駆け寄り、赤い電撃を纏った光の棒を男に叩き付けた。先程と同様に、電撃が男の全身を駆け抜けて意識を奪いとる。

 男は三人で銃を構えていたはずだ。マリンはすぐに振り返って残りの二人に警戒を向けたが、ユーリとクレオも一緒に走ってきていたらしく、それぞれ一人ずつを倒していた。

「いよいよ真打ち登場ですね」

 二人を見てほっと胸を撫で下ろしたマリンに微笑みを返すと、遠くから様子を見ている三人に視線を向けてユーリが悪戯っぽく笑った。

 町で会った金髪の少女が唇を引き締め、波動術を発動させようとしたときだった。

「あなたは下がっていていいですよ。私がやりましょう」

 僧侶か烏天狗を連想させる着物に身を包んだ、歪に縦に長い禿げ上がった頭の、小柄な初老の男が立ち上がると錫杖を突いて近付いてきた。

 顔や頭には深い皺が刻まれ老人であることは明確だが、その鷹のような鋭い視線からは、年齢によっての衰えは微塵も感じさせない。

 老人は十分に距離を取った場所で足を止めると、三人を観察するように見つめてきた。

「さて、ワシのトラップを二度も壊した中和能力者は誰かな?」

 老人はほとんど黒目のない瞳で興味深そうな視線を向けてくると、ニヤリと口の端を吊り上げた。

 マリンは背筋になにか冷たいものが這い上がって来るのを感じ、老人はただの波動術者ではなく妖怪なのではとさえ思った。

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