『私にも分かりませんから』
「そうだけど……。ユグドラシルが噂通りの組織だったら、あの恨み方は異常じゃない?
直接なにかあったんじゃなきゃ、あんなに敵意を剝き出しにしないでしょ?」
「イングヴァイさんはユグドラシルの評価が高いようですね」
少年の手当てを終えるとユーリは喉で小さく笑みを洩らしながら立ち上がり、マリンを見つめて伺うように覗き込んできた。
「別に……、特別な思い入れなんてないわよ。
ただ、自分じゃあどうにもできない不当な理由で人間社会を追われた人たちが身を寄せ合って生きている場所でしょう? もしもユグドラシルがそんな人に恨まれるようなことをする組織だったら、その人たちに救いがないじゃない」
マリンは人間に迫害されて辿り着いた場所で、さらに憎しみを抱くような行いを受けた人たちのことを思い、やりきれなくなって目を閉じた。
「ユグドラシルが本当に悪い組織とは限らないですよ。実際、悪い噂は聞きませんし。
あの少年がなにか誤解をしているのかも知れませんし、ここにいるということはタロットでしょうから、誤った教育をされているのかもしれません。
まぁ、ユグドラシルにも内部の人間にしか分からない闇があるのかもしれませんけどね」
ユーリは気遣うように温言を掛けると、一言付け加えてマリンを見つめて悪戯っぽく微笑んだ。
「うん……。だけど、最後の一言は付け加える必要なかったんじゃない?」
最後の一言が気になり、マリンは怪訝そうに瞳を細めてユーリを見返した。
「本当のところは私にも分かりませんから」
ユーリはくすりと喉で笑いを洩らすと、大袈裟に肩を竦めた。
「学園からユグドラシルに入った人も多いんでしょう? そういう人と話したりしないの?」
「確かに学園とユグドラシルは親密な関係にあり、学園の卒業生は学園で教員補助として残るかユグドラシルに入会している人がほとんどですけど、私は交友関係が少ないですからねぇ……。
まったく分かりません」
「ああ、そんな感じねぇ……」
友人が少ないというのは寂しいことだろうに、なんでもないように言うユーリにマリンはなんとなく納得した。
他の人からありもしない噂を広げられて疎外されているのだと思っていたが、ユーリ自身が他人に興味がないのだ。
自分に興味を示さない人間にはきっと誰も興味を抱いてくれないだろう。持ってくれたとしても、楽しくなくて離れていく。だから、ユーリは一人なのだ。
しかも、それを苦に思わないために状況は改善しない。だがユーリがそれでいいのなら、マリンがなにかをするのはおこがましいことだ。
「気になるのでしたら彼女に尋ねてみたらいかがですか? ユグドラシルの工作員でしたよね? 確か……」
「ああ、そうだ。クレオ! 無事?」
そういえば少年に殴り飛ばされてから姿を見ていない。もしかしたら岩山に激突して重傷を負ってしまったのかも知れないと、マリンは慌てて振り返った。
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