第53話『決闘していただけますか?』
これにはさすがにユーリも表情を強張らせたが、すぐに口許に薄い笑いを浮べた。
クレオが怒っているのは明らかだ。
どうやら彼女にとってマリンに怪我をさせてしまったことは負い目であり、地雷だったようだ。
ユーリは知らずにそれを踏んでしまったのだ。
「大いに関係していると思いますよ? 次の任務には私も同行するわけですし、なによりもイングヴァイさんは私のパートナー候補ナンバー一の人です。
無能な先導者に着いていって、イングヴァイさんが鎌を振るえなくなったら私はパートナーを無くしてしまいます」
「さっきから何が言いたいの? 遠回しすぎて分かり難い。私が先導者なのが気に入らないの?」
「気に入るとか気に入らないとかではなくて、私より年下のあなたにその資質があるのか疑問を覚えるのは当然だと思いますけど?」
「私の適正検査がしたいの? いいよ? なにをすればいい?」
怒りが収まらないのか、クレオはユーリを睨んだまま、感情を抑えた口調で告げた。
先導者でありながらユーリをパーティーから外そうとしないのは、道化師の指示は絶対なのか、ユーリの実力を知って買っているのか、マリンのパートナー候補と言ったからなのか、はたまたその全てかだろう。
ユーリは笑みを濃くしてクレオを見つめると、怪しく赤い唇を吊り上げた。
「それでは、私と決闘をしていただけますかぁ?」
クレオの実力を試すつもりなのだろうが、想像もしていなかったユーリの提案にマリンは焦って瞳を見開いた。
「ユーリ、やめときなさい! その子強いから!」
昨日のタロットとの戦闘でクレオの実力は良く知っている。
さらには付喪神であるユーリは、パートナーと対になって始めて本来の実力が発揮できる。まだユーリの実力は未知数であるが、クレオはパートナーなしで勝てる相手ではないと、マリンは止めようした。
「まぁ強くなければ先導者は務まりませんからねぇ。強いのは当然でしょう?
私が知りたいのは、先導者に成り得るだけの実力があるのかです」
マリンはユーリの言動や行動に違和感を覚えていた。彼女の性格からして、クレオを先導者として認められなかったら、従わずに自分で判断をして行動に移るだろう。
だいたいにして、それが誰であろうと人の下に着くようには思えないし、強いからと言ってもそれが先導者の素質とは言い難い。それなのに、決闘を申し込むほどクレオの実力に拘る理由が分からなかった。
「なら、私が勝てばいいんだね?」
「はい。実力を示して私を安心させてください」
怒りが収まらないのか、鋭い眼光のままでユーリを見上げて冷ややかに告げるクレオに、ユーリはいつも以上に作り物染みた、そう例えるのなら、普段は棘を含んでいるのだとしたら、今は毒でも含んでいそうな笑みを浮べ、クレオを見返すとゆっくりと頷いた。
やはり今のユーリはなにかが違う。
それほど付き合いが長いわけではないから、なにが、と問われると返答に困るが、これはただの挑発とは明らかになにかが違っている。
ユーリにはもっと違う強い意思があるように感じた。
静かに闘志をぶつけ合う二人に、部屋の中が緊張で満たされた。
空気が張り詰めたものへと変わり、一触即発という言葉を肌で感じている気分だ。
止めなければいけないのは分かっているが、息苦しささえ感じさせる二人の気迫に圧倒されて、間に割って入ることもできずにいた。
「怪我しても苦情は聞かないよ?」
「ご心配なく。私が勝った暁には先導者の変更を要求します」
二人は見つめ合いながら冷ややかに言い合うと、クレオは波動を高め、ユーリは手をクレオに向けて突き出した。
付喪神特有の力がユーリの体を駆け抜けたのを感じた。
今、ユーリの身体は、手足はもちろん、髪の毛一本いっぽんまでもが鋭利な刃と化しているはずだ。人型の体に本来の力を付与させる。それこそが付喪神のもつ特殊能力なのだ。
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