聖獣遊戯

ふんわり塩風味

『イングヴァイ』

 とある六月の暑い昼下がり、何時ものように書類の整理をしていると部屋の扉が勢い良く開かれて一人の生徒が駆け込んできた。


「喧嘩だぁ!!」


 ここは私立瑞祥学園風紀委員室。書いて字の如く学園の風紀を守る委員会が待機している一室だ。校則違反を犯したものは通報されて、ここで厳しく取り締まられる。


「階級、種族は?」


 部屋の最奥、室内を見渡すように窓を背にして設置された机に座る、神経質そうな銀縁眼鏡の男が、駆け込んできた生徒に低く問い掛けた。

 風紀委員委員長、学園中から恐れられている生徒の一人、メジマ・ツブタカだ。

 メジマの鋭い眼光に射抜かれて、男子生徒は萎縮してビクッと身体を小さく跳ねさせた。


「階級は両方とも三つ葉、種族は鵺とバジリスクです!」


 男子生徒はメジマの視線に耐えられないのか顔を強張らせながらも、ここで言い淀んでいたら機嫌を損ねると、声を張り上げて報告をした。

 男子生徒の気持ちは分からなくもないが、メジマはそんなに怖がるような相手でもない。

 ただ顔立ちがきつく、口調がぶっきらぼうなため誤解をされがちだが、実は人情深く面倒見のいい、良い先輩だ。


「三つ葉とは言え鵺とバジリスクか。一人で大丈夫だな? イングヴァイ」


「はい。大丈夫です」


 委員長に指名されて、マリンは返事をすると立ち上がった。

 フレームの細い眼鏡をケースに入れて机の上に置くと、腰まで伸ばした自慢の黒い髪を軽く指で弾いて肩に流し、颯爽と男子生徒の元へ向かう。

 合い向かいで三列に並べられた一番右の列の三番目、そこがマリンの席だ。

 普通の教室は黒板を軸に縦に七列で並んでいるが、風紀委員室は窓際にある会長の席を軸に横に並んでいる。

 席順は一番右が一年、一番左が二年、中央が三年であり、階級が高いほど先頭の席を与えられていた。つまりマリンは一年生で三番目ということだ。


「いっ……、一年一人!? 相手は三つ葉ですよ!?」


「ほら。行きますよ! 場所はどこですか?」


 マリン一人では無理だと言わんばかりにメジマに抗議するような男子生徒の肩を掴むと、そのまま引っ張って風紀委員室から出た。

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