『後はこっちでなんとかします』
この学園は普通の学校とは少し違う。
世界には様々な生物が生息している。
人や動物、昆虫や植物。鳥に魚貝、深海まで踏まえれば切りがないほどの生物が存在しているのだ。
その中には、稀に伝説や民承に描かれた聖獣や魔物、神々さえも人間に混ざって生活をしている。
そういうものは子供の頃に人とは違う力を制御できず、または人にはない特別なものとは知らず、うっかり人前で使ってしまうものも少なくはない。
祖先に人外のものがいて、その血統のものがある日突然その血に目覚めてしまう、先祖返りと呼ばれるものならなおのことだ。
この学園はそう言うものたちを集めて、人間の中で円滑な生活を送れるために、カリキュラムの一環として、特別な力の正しい使い方を教えていた。
「お前、本当に止められると思っているのか? 相手は三つ葉二人だぞ?
逆上して向かってきたらちゃんと取り締まれるのかよ?」
二年の校章を制服の襟につけた男子生徒は、オドオドとして聞いてくる。
この学園での風紀委員の処罰は厳しい。もしもマリンが二人を取り押さえられなかったら、二人は風紀委員に通報したものを探すだろう。
この生徒はその逆恨みを恐れているのだ。
「そんな心配しなくても大丈夫ですよ。
ああ、なんなら案内だけしてくだされば教室に戻っていいですよ。後はこっちでなんとかします」
廊下を歩きながら、マリンは男子生徒に向けて言い放つ。
普通の人間たちの中で育ってきたものは、周囲からの迫害を恐れて力を使うことを禁止されているケースが非常に高い。
大人になれば異端な力を恐れる人間の気持ちも分かるらしいが、まだ、どうして人間がそんなに自分たちを危険視するのか良く分からない。傷つけるつもりなどないのに……。
しかし、大人たちは人間じゃないものが人間と同じ姿で生活をしているというだけで、共存を拒み、追い立てて、排除しようとする。
だから、力を隠して制御し、人間の振りをして生きていくしかないのだ。
だが、それは力のあるものにとっては多大なストレスになる。
例えるなら、指を曲げれば片手で簡単に掴めるものを、指は曲げないで持てと言わていれるようなものだ。なぜわざわざ苦労をしなければならないのか理解ができない。
そんな理不尽な抑圧の中で育ってきたものばかりがここには集ってくる。
どんなに力を使っても嫌悪されずに、同じように特別な力で対抗してくれる。
それどころか力が強ければ強いほどに評価されるのだ。
感覚としては喧嘩というよりは力比べに等しい。だから、理由があって喧嘩をするのではなく、喧嘩をするために理由を作るものも少なくはないのだ。
気持ちは分かるが、学園の中には当然、力の弱いものや怖がるものも多くいる。
そんな人たちがつまらない争いに巻き込まれないように、風紀委員は結成されたのだ。
「そんなことを言ったってさぁ、お前、三つ葉を二人も相手にできるのかよ?
そんなに強いようには思えないぞ? 大体お前階級はなんだよ?」
廊下を先導するように進みながら、男子生徒は心配そうに見つめてくる。
階級というのは、個人の総合的な実力を現すもので、茎から始まって葉、二つ葉、三つ葉、四葉と続いて、最高のものは花と称されているが、現状では花と称されているものは、五人しか認められておらず、マリンは会ったことさえなかった。
それだけ、花と呼ばれるには実力が必要なのだ。
「え? 私ですか? 三つ葉ですけど……」
男子生徒の言葉に、なんでそんなことを聞くんだろうと思いながらマリンが答えると、男子生徒はピタッと足を止めて佇み、一足遅れると小走りでマリンに追いついてきた。
「三つ葉一人で三つ葉を二人も止められるわけないだろう!? 風紀委員室に戻って応援を頼んだほうがいいって!」
小声で勢いよく耳元に捲くし立ててくる男子生徒が煩わしくなって、思わず眉間に皺が寄ってしまったとき、廊下の先に人だかりができているのを発見した。
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