『あの子戻せないかな?』

「あんた見掛けに寄らず凄い力なのね……」

「火事場のなんたらですよ。イングヴァイさんが危険でしたので発揮しちゃいました」

 マリンが呆然として言うと、ユーリはいつもの何処までが本当なのか分からない笑みを浮かべながら、丁寧にマリンを地面に下ろしてくれた。

「ありがとう。助かったわ」

「いいえ。どういたしまして」

 マリンが微笑んで素直にお礼を言うと、ユーリも柔らかな笑みを浮かべて返してくれた。

 そんな二人の下へクレオが怪物の動きを警戒しながら近付いて来た。

「凶悪になったのは見た目だけじゃないね」

 相変わらずの糸目で、まるでバスに乗り遅れて、次が来るまで時間が開いて途方に暮れた時ように、ポリポリと後頭部を掻きながらクレオが言う。

 それはそれで困るのだが、一歩間違えれば命を失いかねないこの状況に於いて、随分と軽すぎる反応だとは思ったが、これはこれでクレオらしい。

「だけど、倒せない相手ではないですよね」

 マリンに向けたのとは全く違う、なにか黒いものを含んだ軽薄な笑みを浮かべると、ユーリは腕を振って何処からともなく黒い大鎌を取り出した。

 怪物の放つ波動砲を跳躍してかわしながら、マリンはどうしても攻撃ができなかった。

「あの子……、元に戻せないかな?」

 彼女を倒し、スーツの男を捕らえて任務を完遂しようとしている二人にとって、この議題は面倒を増やすだけだと分かっていたが、マリンは敢えて口にした。

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