『イングヴァイさんらしくもない。』

「イングヴァイさん!!」

「マリン!!」

 ユーリがマリンの前に出て大鎌で怪物の攻撃を受け止め、クレオが波動で怪物の筋肉を固めて動きを封じた。

「ありがとう」

 マリンは我に返ると、仕方がないのだと割り切るために魔道具を取り出して身構えた。

 彼女の素性を考えると、このまま力づくで倒してしまうことに強い抵抗はあるが、救う方法に全く見当もつかない。

 それに今は仲間も一緒だ。一人の勝手な判断で二人を危険に晒すわけにはいかない。

「肉弾戦では不利ですよ。波動を使いなさい。中和も切れていますしね」

 スーツ姿の男が瞳を細めて口許で薄く笑い短く告げると、怪物が瞳を細めて波動を高め始めた。腕を固めたクレオの波動が一瞬にして砕け散り、耐え切れなくなったのかユーリは怪物の腕を受け流すと後ろへ跳躍した。

 怪物は攻撃をユーリに逸らされ、体制を崩すもすぐに左手を三人に向け、手のひらに波動を集結させて大砲のような一撃を放ってきた。

「言葉が……、通じるの……?」

 今、怪物はスーツ姿の男の言葉に素直に従った。当然だがそれは言葉が通じることを物語っている。彼女はまだ怪物になりきっていないことを悟ってマリンは戸惑った。

「マリン!!」

 その戸惑いが仇となってここでも動くタイミングを計り損ね、波動がまっすぐにマリンに迫ってきた。体が竦んで動けない。

 さらに恐怖で思考が止まり、咄嗟に中和を使うこともできなかった。

 波動がマリンを射抜く直前、風に攫われたようにマリンの体が宙に舞った。

「どうしたのですか? イングヴァイさんらしくもない。集中が途切れていますよ?」

 気が付くと、マリンはユーリに首元と膝の裏に手を回された、所謂お姫様抱っこで抱き上げられていて、ユーリはマリンを抱いたままで軽やかに跳躍して怪物の波動の弾丸をかわすと、射程の外れた辺りに着地した。

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