『私も覚悟を決めるわ』

 マリンはふっと意識を取り戻した。シャナの深層心理に入り込む前の、大鎌となったユーリを両手で握って掲げ、怪物と化したシャナの攻撃を受け止めたままの状態だ。

 マリンがシャナと話している間は、まるで時間が止まっていたかのように変わらぬ状況だった。

 少し離れたところでは、クレオがスーツの男を牽制している。

「ただいま。大丈夫だった?」

 状況を把握するとマリンは開口一番にユーリに声を掛けた。

 マリンがシャナの深層心理で話している間、ずっとこの状態を維持してくれていたのだ。

 ユーリの疲労が気になった。

〈大丈夫ですよ? イングヴァイさんが彼女と話している間、彼女もまた魂が抜けている状態でしたので……。私は維持していただけです〉

「そう。それなら良かったわ」

〈それで、彼女の説得はどうでした?〉

「んっ……」

 当然の質問だ。無理を押し通してシャナの深層心理に接続して貰い、結局なに一つとして解決できなかったのだ。申し訳がなくてユーリに合わせる顔がなかった。

〈そうですか……。それなら今は目の前のことに集中しましょう〉

 歯切れの悪い返事をするマリンに状況を察したのか、ユーリはそれ以上は深く問い掛けず、目の前の現実に目を向けた。

「そうね。こうなった以上仕方がないわ!

 残念だけど私も覚悟を決める」

 マリンは一度瞳を閉じると、想像していたシャナと過ごすはずだった楽しい日々を心の奥底に封印し、大鎌と化したユーリに波動を送り込んだ。

 マリンの波動はユーリに増大化され、更にコーティングされてマリンに返ってくる。

 強力な波動で身体を満たされ、高揚する力を溢れさせながら、手の中で大鎌をバトンのように回転させると、正面で構えて、怪物と化したシャナと再び対峙する。

 怪物となったシャナと目が合った。

 深層心理で話したときとはまるで違う、理性はおろか一切の感情を宿していない、作り物のような瞳でマリンを見返している。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る