『素晴らしい』

「どうして……? ねぇ、どうしてそこまでして戦うのよ!」

 波動が少女の波動を押し返して、彼女に到達しようとしているのを見て、マリンは憤りの声を上げた。さっきの奇形種の少年といい、この少女といい、どうしてここまでして戦うのだろう。

 まるで自分の命さえも道具としか見ていないようで、見ていて辛かった。

 少女は怒りで見開かれた瞳から赤い液体を溢れさせ、目尻から白く小さな頬を流れて、顎を伝って滴り落ちた。

 同様に、鼻や口から血液を流して人形のように可愛らしい顔を赤く染めていく。

 波動には許容量というものがある。肉体と魂が最も共鳴する様態のことだ。

 未熟な肉体でそれにそぐわぬ質量の波動を搾り出すと、様々な恩恵を与えてくれる筈の波動は逆に体を蝕み、自ら崩壊を導くのだ。

 老廃を促進させ、内臓を焼き、体中の毛細血管を破裂させる。最悪の場合は心臓や脳に悪影響を与えて即死することさえもありえる。

 だから、普通は無意識に自分で危険領域を悟り、制御している。

 だが、どうやら彼女には、自分の許容量を計る本能が欠落しているようだ。

 それは、酷く危険なことだった。制限なく力を振るえる代わりに、一度の攻撃で命さえ落とし兼ねない。

 マリンの放った波動が少女に迫り、炸裂しようとした瞬間、マリンは堪えられ切れなくなって中和を発動していた。

 マリンを起点に円を描くように白い光が拡がっていき、一定の空間を包み込んで、外とは隔離した波動や特殊能力の使えない無の世界へと変貌させる。

 マリンが魔道具から放った波動も少女の波動も綺麗に消失したように中和され、少女を撃墜するのは免れた。

「これが中和か。素晴らしい。最も、術者ではない私には、あれだけの強大なパルス反応が瞬時に消失した、ということしか分からんがね」

 それまで二人の波動の衝突を、巻き込まれない位置から傍観を決め込んでいたスーツ姿の男が、周囲の波動を数値化させる機械を片手に光の中へ入ってくると、機械の数値を確認しながら満足そうに言い放った。

 その機械自体はそれほど珍しいものではないが、特別な経路を使わなければ手に入らないものだ。

 波動が消え、少女は今にも倒れそうになりながらも、覚束ない足取りでどうにか踏み止まり、濁りのない綺麗な真っ青な瞳でマリンを虎視している。

 マリンはスーツ姿の男を睥睨した。

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