第34話『なにが現実か結果が示してくれるわ』

「そう? さすがにかなり苦しかったけど、このくらいの威力ならそれほど珍しくもないんじゃない? 耐えられる人なんてきっと星の数よ」

 恐怖を胸の奥に隠して、マリンは挑発するように青年を見つめた。相手の感情を逆撫でするような言動も、作り笑いも、全ては自分を奮い立たせる為のものだ。

「そうだね。僕より強い人間は確かに星の数ほどいるかもしれない。

 だけど今、この場所にいて僕を倒せないのならいないのも同じさ。

 それともまだ、僕を倒して軍に差し出せるとでも思っているのかい?」

 マリンの挑発にも青年は何処吹く風で気にした様子もなく嘲笑うと、一際笑みを深くさせた禍々しい顔で見下すような視線を投げながら、身のほど知らずと表情で語ってきた。

「当然でしょ? 例え何処の誰であろうと、私の世界を壊すのは赦さない」

 マリンは岩を踏み締め、魔装器の先端を青年に突き立てるように向けると声を大にして張り上げた。青年に自分の意思を伝えるのと同時に、怖がっている場合などではないことを言葉にして吐き出すことで、自分自身を鼓舞したのだ。

「なら、現実の厳しさというものをしっかりと教えてあげるよ」

 低く喉を鳴らしながら小刻みに肩を震わせて、青年はマリンを見つめると人差し指で差した。それが合図であるように青年の腕から生み出されたものと、地面から生えているもの、合わせれば二十本近くになるであろう茨が、一斉にマリンに向かってくる。

「クッ! なら私は、人間必死になればきっとどんなことでも乗り越えられるということを、大人になって忘れている貴方に思い出させてあげるわ」

 マリンは再び魔装器から波動の弾丸を撃ち放って茨を消し飛ばすと、青年を見つめて力強く言い放った。

「精神論で乗り越えられるほど、現実は優しくないよ。

 夢見がちな君に、僕が現実を教えてあげるよ」

 青年は口の端を吊り上げて小馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、凶悪な笑みを浮かべて低く言い放ってマリンを見返してきた。

 マリンがどれだけ頑張ったところで、埋めることのできない力の差があることはマリンにも理解ができる。それでも絶対に勝てないとは思わなかった。

 魔装器があるからだ。

 どんなに不利であろうと、魔装器の攻撃を一回でも当てることができれば倒せると確信している。

 だから、諦める理由などどこにもない。

 後はタイミングだけだ。当たり前だが当てることができなければどんなに大きな力を持っていようと、無意味だ。

 絶対にかわせないタイミングを計り、マリンは青年を見据えた。

「なにが現実かは結果が示してくれるわ」

 魔装器を深い紫色に発光させて、どんな攻撃にも対応できるように身構えた。

「ああ。そうだね。君に絶望という結果を示してあげよう」

 青年が獲物を狙う肉食獣のように瞳を細めると、急成長した茨が地から這い出して青年を取り囲み、マリンを軽んじるようにゆらゆらと蠢いている。

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