『殺される』
まっすぐだった深い青の瞳を動揺で震わせると、その動揺を怒りに変えてスゥーと瞳を細め、身体から波動の光を噴出させた。波動の力で少女の髪が柔らかな風に吹かれたように揺らめく。
(術者! やっぱりこの子!)
マリンが息を飲み込んだのと、少女が色の白くて、簡単に骨が折れてしまいそうな細くて小さな手を突き出してきたのがほぼ同時だった。
少女の動きに見蕩れていたため、自分に迫る危険への対応が遅れ、『しまった』と思ったときにはすでに遅かった。少女の小さな手の平で収束された、淡い黄金色の波動が奔流となって、マリンに襲い掛かってくる。
黄金色の波動にマリンは軽々と吹き飛ばされて背中から壁に激突すると、そのまま突き破って廊下に投げ出された。拍子にベンチが倒れて人形が圧し掛かってくる。
強力なGに押し潰されたような衝撃に身体中が軋みを上げて、動くこともできずに、体に覆い被さった人形さえも退けられない。それどころか横になることさえ叶わず、マリンは改めて波動の力を思い知らされた。
感覚が麻痺してしまったのか痛みは全く感じず、さらには自己防衛本能までもが働いて、睡魔が押し寄せてくる。
(だめ……。寝たら殺される!)
痛みさえ感じる余裕もなくただ痺れているだけの体に力を込めて、スカートの中に手を入れて太腿に巻きつけたホルスターから魔装具を引き抜いたが、握ることさえできずに手の中を擦り抜けて床を転がって行ってしまった。
最悪だ、と内心で呟きながら、無駄だと分かっていても魔装具に向けて手を伸ばした。
今、キッチンからあの名前も知らない少女が出てきたら拾われてしまう。いや、例え魔装具に気付かなかったとしても、なにもできないまま殺されてしまうだろう。
黄金色の波動を身に纏い、長い金色の髪をゆらゆらと揺らしながら、少女がゆっくりとキッチンから出てくると、マリンの前で立ち止まり手のひらを突き出してきた。
(殺される!)
こんなところで人生に終止符を打つ羽目になるとは思っていなかったが、マリンにはどうすることもできない。恐怖で集中力も散漫していて、中和も使えない。
マリンは覚悟を決めて、両目をきつく閉じた。体に力を込めたところで、あの波動の攻撃に対して防御にもならないのは分かっているが、反射的に備えてしまう。
少女は手のひらをマリンに突きつけたままで、手のひらに波動の光弾を生み出したが、攻撃はしないでじっと見つめている。
いつでも波動を放射できるように構えながら、瞳を閉じてギリリと音を立てて歯噛みすると、波動の弾を握り潰して踵を返し、結局それ以上の攻撃はしないで家から出て行った。
マリンは、彼女の意図が読めずにその後ろ姿を見送った。
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