『もう、私で遊ばないでよ』

「ねぇ、ユーリ。あんたがこの家に入るとき女の子見なかった?」

 何はともあれ、まずはあの女の子に会わなければならない。家を出た後に向かった方向を目撃したものがいたとしたら、入れ違いで入ってきたユーリだけだろう。そう思い、家を出たところでユーリに訊ねてみた。

「ああ、あの小さな女の子ですね? イングヴァイさんって幼女趣味なのですねぇ」

「そんなわけないでしょう! この誰もいない町にあの子だけがいたのよ?

 それに私は学園でもあの子を見ているの。あの子は絶対に何かを知っている。

 話を聞かなきゃ……」

「分かってますよ。冗談じゃないですか。イングヴァイさんってば真面目なのですから。

 大丈夫ですよ。あの人がちゃんと追っています」

 ユーリは小さく肩を竦めてわざとらしく溜め息を吐くと、喉を鳴らすように高い声で笑った。始めからマリンが彼女を探す理由が分かっていながら面白半分に搔き立てただけなのだ。

 それを分かっていながらも否定せずにいられない自分がいやだった。

「クレオが? それなら安心ね。今、何処にいるか分かる?」

「私では安心できませんか?」

 ユーリがなにかを含んだ笑みを浮かべて小首を傾げて聞いて来た。

「誰もそんなことは言ってないでしょ。誰もあの子を追ってないんじゃあ見失っちゃうじゃない!」

「分かってますよ。イングヴァイさんがあまりにも素直な反応を示してくれるのですもの。面白くて、ついつい余計なことをいってしまいます」

「もう! 私で遊ばないでよ! 

 ばかなこと言ってないで急ごう。あの子の力はまだまだ未知数だからクレオが心配!」

「はい。今は町の南へ向かって進行しているみたいですね。こっちですよ」

 ユーリはにこりと笑うと先導して走り出した。

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