第63話『それじゃあまた後で』
理事長室から出ると、鞄を取りに一度教室へ向かった。ユーリも途中までは方向が一緒なため、自然と少しの間一緒に進むことになる。
「いよいよね。村人全員が失踪なんて何が起きてるのかしら」
「そうですねぇ? 全員を一瞬にして連れ去ったか、死体も残らない方法で全員を一度に抹殺したのか、でしょうね」
「随分と物騒なことを言うわね」
確かにユーリの言う方法ならば集団失踪も可能だろう。だが、返ってきた想像以上の辛辣な答えに苦笑を浮べた。
「可能性の話ですよ。その方法が手っ取り早いかなと思っただけです」
恐ろしいことをさらりと言って退けて、涼しい顔でユーリは微笑した。
「まぁ、行ってみれば分かることね。さっさと準備して集合しましょう」
「イングヴァイさん、もしかして楽しんでます?」
二階へと続く階段を上り始めたマリンに、ユーリがいつもの真意を見せない笑みで問い掛けてきた。マリンは足を止めて振り返った。不謹慎ではあるが、正直マリンは自覚できるくらいに今の状況を楽しんでいた。
もちろん町の人たちの安否も気になるし、そんな大勢が一斉に消えるなんてどんな魔法を使っているにしても、放っておくことはできない。
もしも、マリンの力が少しでも役に立つのであれば協力は惜しまないつもりではいるが、学園から外に出られるのは嬉しかった。
小国とはいえ国をまるごと一つ使っているため、生活雑貨にも服にも娯楽施設にも不満はないが、自分の意思で学外に出られないと言うのは、やはりどこか拘束をされている感が否めない。
だから、久しぶりに学園の外にいくのは楽しみだった。
「楽しんでなんてないけど、楽しみではあるかな」
内心を見透かされて一瞬言葉に詰ったが、すぐに笑顔を浮かべて隠す必要もないかと、本音を暴露した。
「外の空気が吸いたいのですね? お気持ちは分かります」
ユーリは楽しそうに微笑むと、同意するように頷いた。
「それじゃあ、また後で……」
「はい。遅れないように気をつけます」
ユーリとは教室の方向が異なるため、廊下で一旦別れて自分の教室へ向かった。
教室に戻ると理事長から話は通達していたらしく、担任の教員から労いの言葉をもらいながら教科書類を鞄にしまうと教室を後にして寮へ戻った。
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