『生きることは戦いですよ?』

 町を出ると、入る前と同様に荒野が広がっていた。

 辺りに連なる、何十にも地層が重なってできた美術品のように綺麗な岩山も、陽の落ちたこの時間になると、あり溢れた、ただの山のシルエットになってしまっている。

 辺り一帯に広がる荒野の中に、あんなに生活感に溢れた町があったのは、自動車など遠くまで多くの物資を運ぶことができる文明と、地下から湧き出る井戸水の恩恵だろう。

 三人はクレオの持つ端末の発信機を頼りに、荒野に伸びる道路を進んだ。

 町に車はあったが、中学生であるマリンたちに運転ができるはずもなく、歩く以外に移動手段がなかったのだ。

 探せば駅くらいはあったかもしれないが、目的は場所でなく人である。特定の場所へ定期的に移動を繰り返すだけの電車では無意味なのだ。

 道路はひび割れ、アスファルトが砕けている箇所が度々あるが修繕された形跡は見受けられず、ほぼ放置に近い状態であるのだと安易に想像ができた。

 ここが国の外れに当たる場所なのを踏まえれば、それも仕方がないのかも知れない。

「そんなに離れてないからすぐに追いつけると思うけど、逆に言えば敵が何処に潜んでるか分からないってことだから、気をつけようね」

 どこもかしこも似たような風景の中を進んでいる最中、視線は端末に落としたままでクレオがポソリと告げてきた。

「そうね。少し気が抜けてたわ」

 クレオの忠告にマリンは弱冠油断していたことを自覚して小さく頷くと、魔道具に波動の詰ったカプセルを挿入して戦闘の準備をした。

「だけど、どの道敵を倒さないと帰れないわけですし、向こうから来てくれるのなら話が早くていいじゃないですか」

 口許に挑発的な笑みを浮かべてユーリが何かを含んだ口調で言った。

「敵を倒すのが目的じゃないでしょう? 目的は町の人の救出。

 だから、町の人を救うまでは無駄な戦闘は控えるべきだよ」

 やたらと好戦的なことを言い出すユーリに呆れながらも、小さく肩を竦めてクレオが柔らかく嗜めた。

 理由のない戦闘は無意味である。

 けれど、戦わなければ守れないものもある。

 それなら人間は、何かを守るために戦うべきである。

 本来武器として作り出されたユーリが好戦的であるのは仕方がないと思うが、それでも争いはないほうがいいのだ。

「生きることは戦いですよ?」

 マリンの隣を歩きながら、ユーリがクスリと喉を鳴らして意味深なことを言ってくる。

 人は常になにかと戦っていると言いたいのだろうか? それが暴力ではなかったとしても確かに人は常に戦っている。

 それが競い合う好敵手であるか自分自身であるかは、人それぞれだろうが、戦っていない人間なんて一人としていないだろう。

 本当になにを考えているのか分からないな、とマリンは内心で呟いた。

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