『手が痺れてしまいました』

「なっ!!」

 思いも寄らない攻撃に、マリンは息を飲み込んで向かってくる光の弾丸を見つめることしかできなかった。

(防御を!)

 思考は冷静に働くが数が多過ぎる。幾ら剣を振り回したところで消滅させられるのはほんの一握りであり、パチンコ玉大の光の雨は、手を足を肩を体を顔までもを、容赦なく打ち付けてくる。

 波動の絶対量は変えずとも、術者ならば使い方次第でこうも変えられるものだと思い知らされた。

 波動術者は必殺技と呼ばれる術を一人ひとり持っている。

 それは、クレオにとって相手の術を固めるのがそれに該当し、先日戦ったタロットのアストレスの茨がそれである。

 だから彼女にとってはあの閃光がそれであると踏んでいたが、それはマリンの思い違いだったようだ。

 魔術師にとって攻撃を変えるのは、パンチやキックのようなものだと教えられたのを思い出した。もっと言えば、野球の投手が複数の変化球を使い分けられるように、時と場合により攻撃を変えることができるのだ。

 そんなことも失念していた自分を恥じた。

 少女の攻撃は一粒一粒はそれほどの威力はないが、数が多過ぎて、マリンにはどうすることもできない。

 中和をするにも意識を集中させる余裕さえない。

 借り物の力を使っているだけの自分と、並みならぬ鍛練を積んで波動の術者になったものとの違いを肌で感じ、力比べをしようなど驕りだったと、初撃で中和を使わなかったことを後悔した。

 剣を振り回して幾つかを消失させたところで、それは幾千、幾百と言う弾丸のほんの一部に過ぎない。吹雪の中で棒を振り回して雪を凌ごうとするような愚かな行為だ。

 光の弾丸に全身を撃ちつけられて、体制を崩して膝を着きそうになったとき、不意に光の弾丸が止んだ。

「イングヴァイさん、中和を!」

 ユーリがマリンの前に立ち、波動で盾を作って少女が放つ波動の弾丸を防ぎながら低く言い放った。

「あっ、うん! ごめん」

 ユーリが盾で少女の波動を止めてくれているうちが仕切り直すチャンスだ。マリンは意識を集中させて、本来ならば初撃で使うべきだった中和を発動させた。

 マリンの身体から視界を奪うほどに白く眩い光が溢れ出し、放射状に広がっていく。

 ユーリを包み込み、少女の攻撃を無効化させながら飲み込もうと攻め寄るが、少女は何かを感じ取ったのか攻撃を止めて距離を取った。

 このまま逃げられてしまうわけには行かないが、悔しいが中和の範囲外で少女に攻撃されたらなす術がない。

 マリンにはどうすることもできなかった。

「あの子、見かけによらず大した術者ですねぇ……。手が痺れてしまいました」

 ユーリがにっこりと笑って言ってきた。これは相手を素直に賞賛したのではなく、仕返しをするつもりでいるときの何かを企んでいる笑みだ。

 マリンは背中に冷たいものを感じて、少女を捕まえていいものかどうか考えてしまった。

 少女を捕縛した後にユーリがなにかをするのではないかと心配になったのだ。

 その少女は中和の範囲外で逃げようともせずに、なにを思ったのか天に向けて両手を掲げている。

 今なら捕らえられるとマリンは行動に出ようとしたが、ユーリがマリンの肩を掴んで制止してきた。マリンはどうして止められたのか分からずユーリを見つめ返す。

 ユーリはなにも言わず、微笑みを浮かべて無言で小さく頭を左右に振った。

 今は少女を捕らえるなということらしい。

「どうして!? こんなチャンスは二度とないかもしれないのに!」

 正直、彼女の波動の凶悪さを分かっていながら、この好機を逃せと言うユーリの真意が分からなかった。

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