『奇形種ですねぇ』

 クレオの体が弾かれたように吹っ飛んで岩山に激突した。

「クレオ!」

「イングヴァイさん。敵から目を離すと危険ですよ?」

 クレオの安否を気遣い、思わず振り返って名前を呼んだが、ユーリに注意を促されすぐに視線を人影に戻した。

「これは珍しい。奇形種ですねぇ。巨人族、鬼でしょうか?」

「道理で。力を感じないわけね」

 奇形種とは、純粋に肉体だけが進化を遂げた、肉弾戦主体の戦士の呼称である。

 波動術を見につけた術者は、波動術が最強であると認識しているため、戦闘に於いてどうしても相手の実力を波動の大きさで判断してしまう癖のようなものがある。

 奇形種と呼ばれる人たちは波動術者ではないため、波動自体は普通の人間と大差がない。だから、波動術者はついつい彼らを軽んじてしまうのだ。

「その可能性に気付けなかったあの人の自業自得です。放っておいて、今はあの少年を倒すことに専念しましょう。

 大丈夫でしょう。きっと絶命はしていませんよ」

「随分とアバウトなのね? そんなにクレオのこと嫌い?」

 クレオの身を全く気に留めない物言いに、マリンは肩を竦めて苦笑を浮かべると、魔道具を相手に向けて波動を発動させた。

 やはり、今も鎌になったユーリが居なければマリンには波動を発動させることはできないが、魔道具なら使うことができる。

 しかも込められた術は、世界中で知らないものがいないほどの達人の波動である。

 相手が誰であろうとも絶対に有効であると、自信を持って宣言できる武器だ。

 魔道具から、大量の波動な練り込まれた術の鎖が伸びて相手に襲い掛かる。

 鎖の主は発動させた術を具現化させることのできる錬金術師であるため、鎖は波動でありながら完全に物質化していて、少し擦れ合うだけで、甲高い金属音さえ響かせている。

 見たところ恐ろしいのはあの右腕だけだ。この鎖であの右手さえ拘束してしまえば勝機は十分にある。

 人影は強襲する鎖を打ち払おうと、一度は右手を振り上げたが、何かを感じたのか寸前で止めて後ろへ飛んだ。

 あそこで相手が鎖に攻撃してくれれば、鎖が巻き付いて勝利を掴むことができていたのだが、そうは簡単には行かないようだ。

 だが、この鎖は敵を追跡して縛りあげてくれる。

 後はマリンが魔道具の発動さえ止めなければ相手を捕らえるのは時間の問題だ。

 人影は鎖を警戒して距離を取るが、鎖は何処までも伸びて人影を捕らえようとする。

 どれだけ上手く逃げようと、この術の正当な術者と、奇形種な少年では、もともとの実力が違いすぎる。

 鎖が人影の腕に巻きつくまでに大した時間を要さなかった。

 人影は手足を大きく振り回して鎖から逃れようとするが、相手が足掻けば足掻くほどに、執拗に鎖は相手に絡みついていく。

「クソッ! クソォ!! ユグドラシルなんかに!」

 雁字搦めになった人影を見つめながら、マリンは手に持った魔道具を強く引いた。

 術でできた鎖が人影の身体に食い込んで絞り上げる。

「負けるか!」

 人影は力任せに鎖を引き千切ろうと暴れるが、鎖には鈍い音を激しく響かせるだけで傷一つつけられない。

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