『お前らユグドラシルか?』
そこに何かがいる。
マリンも気付いてはいたが、二人があまりにも無頓着だったため動物かも知れないと思い始めていたところだったが、やはり敵だったようだ。
マリンは懐から魔道具を取り出すと、光の刃を出現させて身構えた。
「二人とも、分かってるんだったらしゃんとしなさいよ!」
マイペースな二人を一喝しながら、そこにいる敵の動きに警戒をする。
「分かってたんだけどさぁ、そんなに強い力を感じなかったから……」
クレオは相変わらずの糸目で口許ににんまりとした笑みを浮かべた、全く緊張感のない気の抜けた状態で言った。
だが相手はなにをして来るのか分からない。さっきの罠から生まれた人型の術の自爆でさえ、もしも掴まっていたら無事では済まなかっただろう。
例えどんな相手であろうと、油断はするべきではない。
「クレオ、集中して! 例え弱いとしても敵がいるのよ?」
魔道具を気配のした方に向けて、戦闘体制を取りながらマリンが低く言う。
「まぁ、でも、見張りなのかも知れませんし、迅速に倒しておいて間違いはありませんね」
それまでやる気を示さなかったユーリも、マリンが真剣に相対すると、どこか気怠そうではあるが隣に並んで参戦してくれた。
いつでもマリンの味方でいてくれるようだが、鎌になるつもりがないところを見ると、ユーリもこの相手を軽視しているのだろう。
「はいはい。全く、マリンは真面目さんだなぁ……。まぁ、三人の内誰か一人で十分だと思うんだけどねぇ」
クレオは仕方がないとばかりに自分一人で十分だと言わんばかりに二人の前に立つと、余程の自信があるのか構えも取らずに敵がいる辺りに視線を向けた。
「ちょっとクレオ。相手が何者かも分からないんだから!」
「大丈夫、大丈夫。まぁ見ててよ。
ねぇねぇそこの人、隠れてないで出ておいでよ。もうバレてるんだし、隠れててもむだだよ?」
敵が未知数な以上油断はするべきではない。マリンは何度も懸命にクレオを嗜めるが、クレオは全く耳を貸そうとせずに、姿を隠している何者かに声を掛けた。
その時、暗闇の中で影が動いて人の形になった。動きから察すると、地面に伏せて様子を伺っていたが、声を掛けられて立ち上がったのだろう。
「この先にはいかせねぇ! だが、女に怪我はさせたくねぇ。引き返せ」
顔や姿は見えず、ただ人影が行く手を立ち塞がっている姿しか目視できないが、声はまだ幼く、身体も小柄でマリンとそれほど変わらない。恐らくは同年代だろう。
クレオやユーリの態度がに頷けるくらいに、マリンにさえ強い力は感じなかった。
威勢はいいが、残念ながらこの中で一番劣るマリンでも一人で何とかなりそうな相手だ。
「ん~。残念ながらそういうわけにはいかないんだなぁ。悪いんだけど退いてくれない?」
「明日の朝なら邪魔はしねぇよ。だから今晩はやめとけ」
「ふぅん。夜のうちにあの町の人たちが全員移動できるんだ?
飛行機? 船? それとも大型貨物車かなんかかな?」
無遠慮にクレオが問い掛けると、人影は弾かれたように小さく後ろへ飛び、クレオと距離を取って身構えた。その動きに無駄はなく、それなりに戦いなれていることを伺わせた。
「お前らユグドラシルか? 違うな! あそこは今戦争中だ。
ならアニマムンディか? どっちにしてもここは通さねぇけどな!!」
人影は左手で右手の二の腕を掴むような格好で低くクレオに言い放つ。
「どっちかって言うとユグドラシルかな?」
クレオが言っても問題ないといった風に簡単に正体を明かした。マリンは相手を軽く見すぎだとクレオに非難の目を向けたが、クレオは気にも止めた様子がない。
「ユグド……ラシル……!? それなら、遠慮はいらねぇな!!」
少年の声が怒気を含んだ低いものへと変わり、言葉が終わると同時に右手を突き出した。
本来ならば少年の拳がクレオにまで届く間合いではなかった。だが、突き出したと同時に少年の右手が三倍程までに膨れ上がり、巨大になった右手が、全く無警戒だったクレオを殴りつけた。
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