『威勢がいいのは口だけか?』

「おや? 選手交代かね? 構わぬよ。どの道そやつらの敵にはならん」

 老人は口許を歪めて言い放つと、二体の人形に波動を注入した。二体の人形は瞳の部分を一際強く光らせて、二人を迎え撃つ。

 鎧人形がクレオを突き刺そうと、鎗を大きく振りかぶると勢い良く突き出した。

 クレオは波動を放射させて鎗が纏う老人の波動を凝固させて防衛したが、鎧人形の刺突を止めることはできず、クレオの波動は容易く砕け散った。

 しかし、予測済みだったのか、クレオは刺される寸前に後ろへ飛んでいる。

 だが鎧人形は地を抉るほどに激しく踏み込み、まるで生きた騎士のように片手を前へ突き出して、鎗を持った手を軽く引いて腰を落とし、力を蓄積させるような構えを取った。

 その姿はそれこそ人間の騎士が特攻を仕掛けるときのそれだ。

 一切無駄のない構えをここまで再現できるということは、もしかしたらあの老人は名のある槍術師だったのかも知れない。

 鎧人形は人形とは思えぬしなやかで激しい猪突を仕掛けた。

 クレオは体制を崩しながらも波動を放出して自分の波動を固め、円状の盾を作り出して鎗撃を受け止めたが、盾はやはりあっさりと撃ち砕かれ、クレオも簡単に弾き飛ばされる。

 絡繰人形が口を大きく開いて連続で波動弾を撃ち放ちながらユーリに圧倒する。

 放たれた無数の弾丸は近付けば近付くほどにかわす範囲を制限し、受ける防御をも打ち砕き易くなるからだ。

 ユーリは鎌化させた手に波動を宿して強化し、次々に襲い掛かってくる光弾を切り裂いていたが、絡繰人形が迫ってくるのに気付くと大きく右へ跳んで縮まった距離をさらに開き、そのまま絡繰人形を回り込むように走った。

 人形は頭を回転させながら光弾を放ってユーリを追い掛けるが、ユーリは高速で人形の周りを駆け抜け、絡繰人形の放つ光弾をかわし続ける。

 だが、絡繰人形の四本に分かれた腕がユーリの行く手を阻むように先回りして待ち構え、ユーリを突き刺そうと襲い掛かった。

 ユーリは速度を落とすことなく軽快なフットワークですり抜けるように絡繰人形の腕をかわすと、いまだに口から波動弾を撃ち続ける絡繰人形の攻撃をかわしながら円を描くように絡繰人形の周りを走り抜け、徐々に円を小さくしていく。

 蚊取り線香や渦巻きのように内側へ内側へと入り込み、最終的には絡繰人形に辿り着くという作戦だ。

 しかし、不意に絡繰り人形の腹が開きサッカーボール大の波動の塊を放射させた。

 二つ同時の異なる攻撃をするのは波動に熟練した達人でも難しい高等技術である。

 それをこうも容易く扱うことができるのは、生身の人間でなく人形だからだ。

 突如正面から放たれた大きな波動の塊にユーリは驚き一瞬足を止めてしまうも、すぐに我に返り、大きく横に飛んで避ける。

 波動の塊が地面に炸裂して小規模だが爆発を起こした。

「フォッフォッフォッ。どうした? 威勢がいいのは口だけか?

 確かに若いものの才能とは、荒削りではあるが目を瞠るものを感じさせることがある。

 じゃが、ワシはまだお主たちにそれを見せて貰っていないぞ?

 どうした? 優れた若者の才能と感性を見せてくれるのではなかったのか?」

 老人は勝利を確信したのか無駄に伸ばした顎鬚を撫でながら、口許に嫌味な笑みを携えて、纏わり付くようなねちっこい口調で嬲るように言い散らす。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る