『背負うわ。』
「固定概念や、それまで信じていたものを覆すのは妖にだって難しいことですよ?
人間は特に異常に頑固ですから余計でしょう。そう教えられて、そう育てられてきたのでしたら、あの子はきっとタロットとしての使命のようなものを持っているはずです。
洗脳に近いものでしょうけど、残念ながら正気に戻ることはないでしょう。洗脳をしている人間が生きている限りは……。
本心では拒絶していたとしてもそれを表に出すことはないでしょう。本人でさえも気付いていない深層心理の願いですから……。
イングヴァイさんが触れようとしているのは、そう言った誰にも見せられない心の奥底ですよ? イングヴァイさんにあの人の人生を背負う覚悟はありますか?」
心の奥底に誰もが人には知られたくないものを抱えている。胸に秘めたその本心を、これまでの生き様を、誰かに語るのは簡単なことではない。
いつ、何処で誰に話されるのかも分からないし、自分の弱みを晒すことになるからだ。
容易くは話せることではない。話すほうにも聞くほうにも、相応の覚悟が必要だ。
ユーリの言う通り彼女の心の内を知るのは、彼女の人生を背負うということだった。
それでも、マリンは彼女の心に触れたかった。
不当な扱いをされているのなら助けてあげたかった。
ユグドラシルに所属しているなんて言う誤解を解きたかったし、組織ではなくマリンと言う個人を見て欲しかった。
なによりも心を通わせたかった。
理由は分からないが素直にそう思えた。一目惚れというものなのかもしれない。
意味合いは変わるかもしれないが、親しくなりたいと思うのに性別は関係ないはずだ。
「背負うわ。例え、結果がどんなことになっても……」
理屈を並べて無理だ仕方がないと諦めるのが大人なのかもしれない。敵なのだから倒すべきだと、なにも考えないで戦うのが最善なのかもしれない。
だけど、それでは納得ができない。
この場は解決できるかもしれないが、絶対に後で後悔する。
彼女の本心と話しても、拒絶され、傷付けられるだけかもしれないが、なにもしないで後悔するのなら、精一杯やれることやって傷付けられたほうがいい。
マリンはユーリを見つめて、強く言い放ちながら頷いた。
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