『元気でね……』

 目を開けると、視界に入ってきたのは白い見知らぬ天井だった。

 鼻腔を撫でる消毒の臭いで、病院かそれに殉ずる施設だろうと安易に想像はできた。

 例の如く送還の途中で眠ってしまったらしく、帰還したときの記憶はないが、ぼんやりと道化師や他の教師がアニマムンディの軍人と話しているのを見たような気がする。

 眠っているマリンを運び、ベッドに寝かせてくれたのだろう。

 寝返りを打つと、隣のベッドでユーリが丸まり、幸せそうに微笑みながら眠っているのが見えた。マリンは小さく笑みを溢すと、クレオはどうしたのかと反対側を見てみる。

 すると、反対側のベッドで布団を蹴飛ばして大の字になり、お腹を出して、眠ってまでにんまりとした笑みを浮かべているクレオの姿があった。

 マリンは半分は呆れ、後半分は安堵し、声は出さないように笑みを噛み殺すと天井を見上げた。


 この部屋にシャナの姿はない。やはりと言うべきかもしれないが、一緒に学園にくることはできなかったのだ。身柄は恐らくアニマムンディに拘束されているのだろう。

 アニマムンディなら身の安全は保障される。犯罪を強要されることももうない。

 然るべき施設に預けられ、普通の将来を確約されたのだ。

 シャナにとっては喜ばしいことなのだが、一緒にいられないことが寂しかった。


(元気ですか? 笑えていますか? それだけが気掛かりです)


 白い天井にシャナの姿を思い浮かべて内心で問い掛けてみるが、当然だが返答はない。

 届かない思いに自嘲を浮かべて、耐え切れずに瞳を伏せた。


「元気でね……」


 聞こえないとは分かりつつも、マリンは言葉を洩らしていた。

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