第24話『モグラか地低人になった気分だし』
「罠!?」
クレオの言葉にマリンは注意深く辺りに視線を配るが、それらしいものは見つけられず、何処にあるのかと言う問い掛けも含めて復唱した。
「うん。足元。札型のトラップだね」
クレオがマリンに追い付いてくると隣に並んでポケットから小さなナイフを取り出し、波動で包み込んで進路上の地面に向けて投擲した。緑の光に包まれたナイフは地面に突き刺さると小規模な爆発を起こした。
衝撃を与えると術が発動する簡易なトラップだ。
爆風が通路を駆け抜けて洞窟を揺らしたが崩すほどの威力はない。
だが、人を一人吹っ飛ばせるくらいの衝撃は十分にある。
結界を解かれた時のことを推定しての対応だろう。
マリンは息を飲み込み、顔を強張らせてその光景を見つめていた。もしもクレオが止めてくれなかったことを想像すると、額に冷たい汗が浮かんできた。
「これでも手足の一本くらいは吹っ飛ばせるから気をつけてね」
青褪めるマリンに軽い口調で言うと、マリンの傍らを通り抜けて先行して歩き始めた。勿論、波動を広げて感知力は高めたままだ。
その後二人は、クレオを先頭にトラップを破壊しながら洞窟を奥へ進んだ。守られるのは不本意ではあるが、札に込められた波動をマリンには識別することができない。
紙が貼り付けてあるのだけで、目視できるのであれば辺りを確認しながら進めば済むことだが、貼り付けられた札は回りに溶け込むように姿を変えているのか、それとも透明になってしまうのか、視認することはできない。
うっかり触れて取り返しの付かない怪我を負ってしまったら、一生を左右する上にクレオの捜査の妨げになり、強いては再び学園を危険に晒してしまう。
治安を守る風紀委員である以上それだけは絶対に避けなければならず、マリンは不満ながらもクレオの後を歩いていた。
どのくらい歩いただろう。時間にするともう一時間は歩いている。距離にすれば三キロくらいだろうか? クレオが八つ目のトラップに、波動で強化した短剣を突き刺して爆破させ衝撃波が洞窟のような通路を駆け抜ける。
一つひとつは小さな衝撃でも、八回も起きればさすがに通路への負担は蓄積していき、幾つもの小石が何処からともなく転がってきた。通路内のどこかが崩れている証拠だ。
今、この通路が崩れたらマリンもクレオも生き埋めになる。不安は感じていたが、それはクレオも同じであり、言ったところでどうにもならない。
駆り立ててくる不安を押し隠しながら、マリンは出口を目指した。
「あっ、風だ。出口が近いよ! マリン」
いつものにんまりとした笑みを浮かべたままで振り返ってクレオが言った。
言われてみれば微かにだが風が頬を撫でている気がする。
それまで気付かなかったのは、トラップを破壊した衝撃波でも、クレオが身に纏っている波動ででも、空気は動くからだ。
いま頬に感じる風も衝撃波の余波なのか、クレオの波動の影響なのか、自然に吹く風なのか、実のところマリンには判別がついていなかった。
「えっ……? そう……なの……? なら早く行きましょう」
それでも外に出られるのなら越したことはない。クレオの言葉に頷くと、自然と笑みを浮かべてマリンは先に歩みを進めた。
洞窟や地下など、閉鎖された空間は崩れたら閉じ込められてしまう。酸欠にさえなりかねないし、ガスの噴出さえ有り得るのだ。早く外に出たかった。
「うん。そだね。なんかモグラか地底人になった気分だし」
クレオは相変わらず何処まで本気か分からない、にんまりとした笑みで言うと出口に向かって歩いていく。
それから数分進むと前方が奥から明るくなってきて、出口が近いことを報せてきた。
二人は久しぶりに見る光が嬉しくなって足は自然と早くなったが、頭上に複数の人の気配を感じて慌てて足を止めた。
言葉を発する余裕もなく顔を見合わせると、大きく頷いて引き返す。
この先は敵地だ。そこにいるのは当然全員が敵である。
洞窟の出口を狙われたら一環の終わりだ。
二人は来た道を戻り、追撃してきたところを叩くために待ち構えたが、敵も二人を出口で仕留めるつもりなのか追って来ない。
こうなると根気比べになるが、状況は圧倒的にこちらが不利である。
此方は相手の隙を旨く付かなければ敵地に行くことができないが、相手は最悪この通路を塞いでしまえばマリンとクレオを生き埋めにすることができてしまうのだ。
相手の次の動向に注意を払うが一向に動き出す気配はない。
もしかしたらマリンとクレオが近くまで来ていることに気付いていないのかもしれないが、だからと言って奇襲を仕掛けるには地の利が悪すぎる。
倒すところか強行突破さえもできないだろう。
クレオになにか秘策があるのか気になり横目で見るが、マリンの真意に気付いたのかクレオは苦笑を浮べると大袈裟に肩を竦めて、なにもないとゆっくりと頭を左右に振った。
どうやらクレオにはこの状況を覆す策は持っていないようだ。
仕方がないとマリンは制服の内ポケットに手を入れると、戦闘用のアイテムに手を伸ばした。
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